富士山1合目から山頂を目指す登山は、初心者の日帰り向けではなく、馬返し早朝発と山小屋泊が基本です。
2026年は吉田ルートの通行料4,000円、五合目ゲートの時間・人数規制に加え、麓から五合目だけ歩く人にも免除申請の手続きがあります。7月には二合目付近で75歳の単独登山者が疲労により動けなくなる救助事例も起きました。
富士山1合目から登るとは?実際の出発地点は馬返し
富士山の「1合目から登る」とは、一般に山梨県富士吉田市の吉田口登山道を使い、一合目・鈴原社跡から山頂を目指す登山を指します。
ただし、バスやタクシーで一合目まで直接入れるわけではありません。交通上の起点になるのは、標高約1,450mの馬返しです。
馬返しから石造りの鳥居をくぐり、樹林帯を約15分登ると、標高約1,520mの一合目に着きます。その後は二合目、三合目、四合目、四合五勺、吉田口五合目を経て、六合目付近で現在の吉田ルートに合流します。
確認項目 2026年の目安
交通上の起点 馬返し・標高約1,450m
一合目 鈴原社跡・標高約1,520m
馬返しから一合目 徒歩約15分
馬返しから吉田口五合目 約3時間30分
一合目から吉田口五合目 単純計算で約3時間15分
一合目から山頂 公式の通し時間なし。歩行だけで約10時間前後を見込む
初心者の推奨日程 2泊3日を含めて検討
2026年の通行料 1人1回4,000円
ゲート閉鎖 14時から翌3時まで
1日の人数上限 4,000人
規制の対象外 山小屋宿泊予約者など
馬返しから五合目のみ 当日の免除申請が必要
一合目・鈴原社は現在どうなっている?
一合目には、かつて大日如来を祀った鈴原社がありました。
16世紀にはすでに社が存在したことが確認され、1840年代に建てられた建物も残っていました。しかし、富士吉田市が所有者などの協力を得て解体調査を実施したため、現在の現地は更地の状態です。
古い写真を見て、今も社殿が立っていると思って訪れると、少し驚くかもしれません。
けれども、建物がなくなったからといって、一合目の意味まで消えたわけではありません。森の中に残る石や地形に目を向ければ、ここが人々の祈りと覚悟が交差した場所だったことが伝わってきます。
馬返しは「山の時間」へ入る門
馬返しという名は、道が険しくなり、登拝者が乗ってきた馬を返して徒歩へ切り替えた場所に由来するとされています。
石造りの鳥居の両側には、手を合わせた猿の像があります。富士山が庚申の年に現れたという伝説から、猿は富士山の使いとして意識されてきました。
僕は何度歩いても、この鳥居の前で空気が変わるのを感じます。
町の生活音が遠ざかり、木々のざわめきと自分の呼吸だけが残る。馬返しは単なる登山口ではなく、人の時間から山の時間へ入る最初の門なのです。
北口本宮冨士浅間神社から登る場合は別の計画になる
歴史的な吉田口登山道の起点は、北口本宮冨士浅間神社です。
富士吉田市のモデルコースでは、北口本宮冨士浅間神社から馬返しまで約6時間、馬返しから吉田口五合目まで約3時間30分と案内されています。史跡見学などを含むモデルですが、麓から歩けば五合目までだけでも長時間行動になることが分かります。
つまり、「一合目から登る計画」と「浅間神社から歩く計画」は同じではありません。
浅間神社から山頂まで通して歩く場合は、距離、累積標高差、補給、宿泊場所のすべてを組み直す必要があります。初めての富士登山で安易に選ぶ行程ではありません。
富士山1合目へのアクセスは?2026年のバスと通行規制
富士山一合目へ向かう主な方法は、路線バス、タクシー、マイカーです。
ただし、山頂まで目指す場合は「馬返しへ着けるか」だけでなく、何時に歩き始められるか、下山後にどう帰るかまで決めておかなければなりません。
2026年の馬返しバス運行日と時刻
2026年は、富士山駅と馬返しを結ぶ馬返バスが季節運行されています。
運行予定は次のとおりです。
- 4月11日から6月30日まで:土日祝日
- 7月1日から8月31日まで:毎日
- 9月1日から11月3日まで:土日祝日
富士山駅発は9時30分と15時、馬返し着は10時と15時30分です。復路は馬返し発10時10分と15時35分で、富士山駅までの片道運賃は500円と案内されています。
ただし、富士登山競走や地域行事、悪天候などで運休する日があります。運行日、時刻、運賃は利用直前に富士急行バスの最新案内を確認してください。
ここで重要なのは、午前10時に馬返しへ到着してから山頂を目指す計画は、行動開始が遅すぎるという点です。
馬返しバスは、馬返しから吉田口五合目までを歩く日帰りハイキングには利用しやすい一方、一合目から山頂へ向かう登山には適していません。
山頂まで目指すなら、前日に富士吉田市内へ宿泊し、早朝にタクシーや宿の送迎を利用して馬返しへ入る方法が現実的です。
2026年の吉田ルート通行料は4,000円
2026年の吉田ルートでは、7月1日から9月10日まで、1人1回4,000円の通行料が必要です。
支払いは現地または吉田ルート通行予約システムで受け付けられています。事前予約者には数量限定の木札が用意されますが、通行予約そのものは当日でも可能と案内されています。
五合目の登山道入口では、次の規制が行われます。
- 14時から翌3時までゲートを閉鎖
- 1日の登山者数を4,000人までに制限
- 防寒具を確認
- 上下が分かれた雨具を確認
- 登山に適した靴を確認
- 必要な装備がない場合は通行できない
山小屋宿泊予約者は、時間規制と人数規制の対象外です。
ただし、山小屋を予約していれば通行料も無料になるわけではありません。山頂方向へ進む場合は、原則として4,000円を支払う必要があります。
馬返しから五合目だけ歩く場合も申請が必要
2026年度以降、馬返しから五合目ゲートまでの区間だけを利用し、六合目以上へ進まない人は通行料の免除対象になりました。
ただし、自動的に無料になる制度ではありません。
免除を希望する人は、利用当日に指定場所で申請しなければなりません。麓から五合目へ進む場合は泉ヶ滝で申請し、受付時間は5時から18時までです。それ以外の時間は五合目ゲートで申請します。
五合目から馬返し方面へ下る場合は、五合目受付窓口で申請し、係員の引率を受けてゲートを通過します。
引率は6時30分から18時まで、おおむね1時間に1回です。それ以外の時間は、免除制度を利用して麓側へ通行できません。
六合目以上へ向かう人は免除の対象外となり、富士山安全指導センター付近の窓口で通行料を支払います。
制度を知らずに「麓から歩けば無料」「五合目の施設を使わなければ無料」と考えると、現地で予定が崩れます。
規制は料金を徴収するためだけの仕組みではありません。登山者がどこから入り、どちらへ進んだのかを把握し、準備不足の人を危険な上部へ進ませないための安全管理でもあります。
マイカーは車の回収まで考える
馬返しには車で近づけますが、山頂から一般的な吉田ルート下山道を利用すると、富士スバルライン五合目へ戻る形になります。
馬返しに駐車した車は、離れた場所に残ります。
主な方法は次のとおりです。
- 馬返しまで同じ登山道を往復する
- 家族や同行者に送迎してもらう
- 往路をタクシー、復路を五合目からのバスにする
- 下山後にタクシーで馬返しへ戻る
- 宿泊施設に車を置き、送迎の有無を確認する
僕が勧めたいのは、往路をタクシー、復路を富士スバルライン五合目からのバスにする計画です。
疲労した下山後に車の回収方法を考えると、乗り継ぎの見落としや無理な歩行につながります。登頂はゴールではありません。町へ戻り、靴を脱ぐまでが一つの登山です。

富士山1合目から山頂まで何時間?「2つの五合目」に注意
富士山一合目から山頂までの、公式な通しコースタイムは公表されていません。
「約9時間半」「約10時間」と紹介されることがありますが、複数の区間別モデルを組み合わせた概算です。個人差を含まない確定時間ではありません。
吉田口五合目とスバルライン五合目は別の場所
馬返しから登った先にあるのは、佐藤小屋周辺の吉田口登山道五合目です。
観光バスや路線バスが到着する場所は、富士スバルライン五合目です。
標高はいずれも約2,300mですが、同じ地点ではありません。両地点を結ぶ小御岳道は徒歩約40分で、佐藤小屋周辺から山頂へ向かう人は六合目方面へ進みます。
この違いを無視すると、所要時間やバスの位置、下山後の帰り方を誤ります。
地図上では近く見えても、疲労した体で歩く40分は短くありません。特に下山後は、最終バスの時刻を含めて余裕を持たせてください。
一合目から山頂までの現実的な時間
富士吉田市のモデルコースでは、馬返しから吉田口五合目まで約3時間30分です。
一合目は馬返しから約15分のため、単純計算では一合目から吉田口五合目まで約3時間15分となります。史跡見学、休憩、写真撮影は含めずに考えるべきです。
吉田口五合目から六合目までは約40分です。富士吉田市は、初心者が一般的な五合目から山頂まで登る時間について約7時間、下山を約4時間と案内しています。
これらを機械的に重ねると、一合目から山頂までは歩行だけで約10時間前後が一つの参考値になります。
ただし、これは公式の通しコースタイムではありません。
実際には次の時間が加わります。
- 五合目や六合目での通行手続き
- 食事と水分補給
- トイレ待ち
- 山小屋での休憩
- 混雑による停止
- 高度順応
- 天候悪化によるペース低下
- 体調確認
- 史跡や分岐の確認
そのため、登山計画上は休憩を含む行動時間を11~13時間以上と考え、一日で山頂まで到達するのではなく、途中で宿泊して分割するのが安全です。
僕自身も吉田口を何度も歩いていますが、自分の速い記録を初心者の基準にはしません。
乾いた道と雨上がりの道では歩きやすさが違い、荷物が2kg増えるだけでも後半の脚は変わります。所要時間は競争の数字ではなく、日没前に安全な場所へ着くための判断材料です。
各合目の目安と見どころ
一合目・鈴原社跡
- 標高:約1,520m
- 馬返しから:約15分
- 見どころ:大日如来を祀った信仰の跡
- 注意点:社殿は解体調査され、現地は更地
二合目・御室浅間神社
- 一合目から:約30分
- 見どころ:富士御室浅間神社の山宮
- 注意点:本殿は1972年に里宮へ移築され、現地には拝殿が残る
三合目・中食堂
- 二合目から:約20分
- 見どころ:「三軒茶屋」とも呼ばれた休憩地
- 注意点:現在営業する食堂を意味する名前ではない
四合目・大黒小屋跡
- 三合目から:約25分
- 標高:約2,010m
- 見どころ:大黒天を祀った堂と茶屋の歴史
- 注意点:標高2,000mを超え、疲労が表れやすい
四合五勺・御座石浅間神社
- 四合目から:約15分
- 見どころ:御座石、富士講の石碑、小屋跡
- 注意点:木の根や濡れた岩で足を取られやすい
吉田口五合目・佐藤小屋周辺
- 四合五勺から:約30分以上
- 標高:約2,230~2,300m
- 見どころ:下部登山道と山頂側を結ぶ中継地点
- 注意点:富士スバルライン五合目と混同しない
区間の目安や史跡の概要は、富士吉田市の公式モデルコースで案内されています。
昔の小屋や茶屋の名前が残っていても、現在そこで水や食料を買えるとは限りません。
馬返しから五合目までに必要な飲料、行動食、雨具は、馬返しへ入る前にそろえてください。
2026年7月の救助事例で何が起きた?
2026年7月22日、吉田口登山道の二合目付近で、疲労により歩けなくなった東京都練馬区の75歳男性が救助されました。
報道によると、男性は前日の21日午前9時ごろ、北口本宮冨士浅間神社から単独で出発し、馬返しを経由して山頂を目指しました。しかし、二合目付近で歩行が困難になり、登山道付近で一夜を過ごしました。翌22日に別の登山者が発見し、警察と消防によって救助されています。けがはなかったと報じられました。
報道では、男性はヘッドライト、雨具、食料を持ち、山小屋も予約していた一方、本格的な登山は初めてで、登山靴ではなかったとされています。
この事例を、年齢だけの問題として片付けてはいけません。
重要なのは、複数の条件が重なっていたことです。
- 本格的な登山経験がなかった
- 単独で行動していた
- 麓から山頂までの長大な計画だった
- 登山に適した靴ではなかった
- 午前9時ごろに麓から出発した
- 早い段階で疲労により動けなくなった
北口本宮冨士浅間神社から二合目までは、「まだ標高が低い序盤」に見えます。
しかし、麓から歩けば馬返しへ到達するまでにも長い上りがあります。二合目という数字だけを見て、ほとんど歩いていないと考えるのは正確ではありません。
装備があっても計画が無理なら動けなくなる
ヘッドライトや雨具、食料、山小屋予約は、いずれも大切です。
けれども、それらを持っているだけで、長すぎる行程が安全な行程に変わるわけではありません。
装備は、体力不足や出発時刻の遅れを帳消しにする魔法ではないからです。
僕がこの救助事例から強く感じるのは、登山者が「持ち物の有無」だけで準備を判断しやすいことです。
本当に確認すべきなのは、何時間歩いた経験があるか、標高差をどの程度登れるか、予定より遅れたときにどこで中止するかです。
一合目登山では撤退時刻を先に決める
山頂を目指す計画では、到着予定時刻を決める人は多くいます。
一方で、引き返す時刻まで決めている人は多くありません。
一合目から登る場合は、出発前に次のような撤退基準を設定してください。
- 一合目で強い疲労があるなら山頂計画を中止する
- 三合目到着が予定より1時間以上遅れたら五合目までに変更する
- 五合目で頭痛、吐き気、ふらつきがあれば登らない
- 雨具を着ても寒さが止まらなければ高度を下げる
- 山小屋の到着予定時刻に遅れる場合は小屋へ連絡する
- 日没後の樹林帯歩行を前提にしない
- 単独登山では計画と現在地を家族へ共有する
- 自力歩行が難しくなる前に救助要請を判断する
撤退は失敗ではありません。
山頂は翌年もそこにありますが、その日の体力と天候は戻りません。引き返す判断は、登頂を諦める弱さではなく、生きて帰るための技術です。

初心者が富士山1合目から登る安全な宿泊計画
初めて一合目から山頂を目指す人には、日帰りではなく、少なくとも山小屋泊を組み込んだ計画を勧めます。
長時間登山に慣れていない人や、吉田口の史跡を見ながら歩きたい人は、2泊3日を第一候補にしてください。
経験者向けの1泊2日
前日
- 富士吉田市内に宿泊する
- タクシーや送迎を予約する
- 山小屋へ到着予定時刻を伝える
- 天候と登山道情報を確認する
1日目
- 夜明け前後に馬返しを出発する
- 一合目から吉田口五合目へ登る
- 六合目で体調と装備を再確認する
- 七合目または八合目の予約済み山小屋へ進む
- 夕方までに山小屋へ到着する
2日目
- 天候と体調が良い場合だけ山頂へ進む
- 山頂到着後は早めに下山を始める
- 吉田ルート下山道で富士スバルライン五合目へ下る
- 最終バスより十分早く到着する
この行程は、1日目の歩行時間が長くなります。
普段から標高差1,500m以上、8~10時間程度の登山を経験している人でなければ、余裕のある計画とはいえません。
初心者に勧めたい2泊3日
1日目
- 早朝に馬返しを出発する
- 一合目から史跡を見ながら登る
- 吉田口五合目の佐藤小屋周辺で宿泊する
2日目
- 朝の体調を確認する
- 六合目から七合目、八合目へ進む
- 予約済みの山小屋へ早めに到着する
3日目
- 天候と体調が良ければ山頂を目指す
- 混雑時はご来光直前の山頂到着に固執しない
- 山頂から吉田ルート下山道へ進む
- 富士スバルライン五合目からバスで帰る
かつて麓から登った人々も、五合目付近と八合目付近で宿泊することが少なくなかったと富士吉田市は紹介しています。
2泊3日は費用も時間もかかります。
しかし、高度を少しずつ上げながら、森、信仰遺跡、溶岩地形、森林限界を順にたどれるため、一合目から登る価値を最も味わいやすい行程です。
まず馬返しから五合目だけ歩いてみる
初めての人は、いきなり山頂まで計画せず、馬返しから吉田口五合目までの日帰り登山を先に経験してください。
確認したいのは、単に五合目へ着けたかどうかではありません。
- 五合目到着時に脚がどれほど残っているか
- 水分をどの程度消費したか
- 行動食を問題なく食べられたか
- 登りで呼吸が乱れ続けなかったか
- 下りで膝や足裏に痛みが出なかったか
- ザックの重さが負担にならなかったか
- 予定時間との差がどれほどあったか
- 翌日に強い疲労が残らなかったか
五合目に着いた時点で脚を使い切っているなら、そこから山頂へ続ける計画はまだ早いと考えられます。
富士山は、根性を証明する場所ではありません。自分の体力を正しく測り、無理を無理だと認める場所です。
一合目から登るために必要な装備
一合目から山頂まで登る場合は、一般的な五合目出発より行動時間が長くなります。
最低限、次の装備を準備してください。
- 履き慣らした登山靴
- 上下が分かれた登山用レインウェア
- フリースや薄手ダウンなどの保温着
- 防風性のある上着
- 速乾性の肌着
- ヘッドライト
- 予備電池または予備ライト
- 紙地図
- オフライン地図アプリ
- モバイルバッテリー
- 十分な飲料
- 行動食
- 帽子
- 手袋
- サングラス
- 日焼け止め
- 救急用品
- 身分証明書
- 現金と小銭
- ごみ袋
- ヘルメット
- トレッキングポール
2026年の吉田ルートでは、防寒具、上下分離型の雨具、登山に適した靴が五合目で確認され、必要な装備がなければ登下山道を利用できません。
下部の吉田口登山道は樹林帯ですが、夏でも雨にぬれた後は体が冷えます。
晴天時は暑さと発汗が問題になり、休憩時や標高が上がった後は汗冷えが問題になります。暑さと寒さが同じ一日の中にあるのが、富士山の難しさです。
一合目からなら高山病にならない?
一合目から歩けば、バスで一気に標高約2,300mへ上がるより、高度を上げる時間を長く取れます。
その点では、体を高度に慣らしやすい可能性があります。
ただし、「一合目からなら高山病にならない」とは言えません。
長時間歩行による脱水、睡眠不足、低血糖、疲労が重なれば呼吸が浅くなり、高度への適応を妨げます。山小屋へ急ぐためにペースを上げれば、ゆっくり高度を上げる利点も失われます。
基本となる対策は次のとおりです。
- 会話できる程度の速度で歩く
- 歩幅を小さくする
- 喉が渇く前に少量ずつ飲む
- 空腹になる前に行動食を取る
- 頭痛や吐き気を我慢して登らない
- 症状が悪化したら高度を下げる
- 山小屋で十分に休む
- 寝不足のまま出発しない
山梨県も、富士山では頭痛、吐き気、めまいなどの高山病が起こる可能性があり、山小屋宿泊や余裕のある計画が対策になると案内しています。
登り続けることだけが勇気ではありません。
標高を下げる判断もまた、山を理解した人の勇気です。
富士山1合目登山の価値と今後の課題
ここからは、富士山を繰り返し歩いてきた僕個人の考察です。
一合目から登る価値は、歩行距離の長さや達成感だけではありません。
森、信仰、火山、近代観光という異なる富士山を、一つの道の上で連続して体験できることにあります。
一合目には大日如来を祀った鈴原社の記憶があります。
二合目には御室浅間神社があり、三合目には登拝者が食事を取った中食堂の跡があります。四合目を越えると木々の間に溶岩地形が目立ち始め、五合目から上では樹木が少なくなり、火山そのものの姿へ変わります。
地理学の視点では、植生と地表の変化を垂直方向に観察できる道です。
歴史の視点では、神仏習合、富士講、山小屋文化、観光登山へと移り変わった、人と富士山の関係を読み取れます。
五合目から登ると、多くの人の意識は最初から山頂へ向かいます。
一合目から登ると、山頂に着く前に「人はなぜ、この山を登ってきたのか」という問いに出会います。それこそが、吉田口の古道を歩く大きな意味だと僕は考えています。
一方で、2026年7月の救助事例は、この道が物語だけでは歩けないことを示しました。
歴史ある道、標高の低い道、木々に囲まれた道という印象は、危険を小さく見せることがあります。しかし実際には、麓からの長大な登山道であり、上部へ入る前に体力を使い切る可能性があります。
今後、五合目ゲートの規制だけでなく、馬返しより下から歩く人への安全情報も、さらに充実させる必要があるでしょう。
特に必要だと感じるのは、次の情報です。
- 麓から出発する人の現実的な出発時刻
- 区間別の標準時間と撤退時刻
- 五合目だけ利用する人の免除申請場所
- 六合目での通行料支払い方法
- 山小屋へ到着できない場合の連絡方法
- 単独登山者の位置共有方法
- 麓での装備確認
- 五合目へ着いた時点での再判定
規制は、登山者を締め出すためだけのものではありません。
準備不足のまま上へ進む流れを止め、登山者の命と富士山の環境を守るための仕組みです。
霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ています。
見えない山頂ばかりを追うと、自分の足元が見えなくなる。一合目登山が教えてくれるのは、頂上への近道ではなく、引き返す場所を自分で決める知恵なのかもしれません。
まとめ
富士山1合目から登る場合、交通上の起点は標高約1,450mの馬返しです。
馬返しから約15分で一合目・鈴原社跡へ着き、吉田口五合目までは全体で約3時間30分。一合目からなら単純計算で約3時間15分ですが、休憩や史跡見学は含まれていません。
一合目から山頂までの公式な通しコースタイムはありません。
区間別の案内を組み合わせると、歩行だけで約10時間前後が一つの参考値です。実際には休憩、手続き、食事、混雑、高度順応を含め、11~13時間以上の行動になる可能性があります。
2026年の吉田ルートでは、1人1回4,000円の通行料、14時から翌3時までのゲート閉鎖、1日4,000人の人数上限、装備確認が行われています。馬返しから五合目までだけを歩く場合も、利用当日の免除申請が必要です。
2026年7月には、麓から単独で山頂を目指した75歳男性が二合目付近で疲労により動けなくなり、一夜を過ごした後に救助されました。装備の一部や山小屋予約があっても、体力に合わない行程は安全な計画にはなりません。
一合目登山の魅力は、長く歩くことそのものではありません。
社の跡、小屋跡、石碑、樹林、溶岩、砂礫をたどり、祈りの山から火山の頂へ変わる富士山を、自分の足で読み進められることです。
ただし、山頂へ行くことより、安全に帰ることを優先してください。
山頂だけを見つめていると、富士山の半分を見落とします。そして自分の疲労を見落としたとき、山は静かに帰路を遠ざけます。
よくある質問
富士山の一合目まで車で行けますか?
一合目・鈴原社跡まで一般車で直接入ることはできません。
車、タクシー、季節運行バスで向かう一般的な起点は馬返しです。馬返しから約15分歩くと一合目へ着きます。
富士山1合目から山頂まで何時間かかりますか?
公式な通しコースタイムはありません。
区間別の公式案内を組み合わせると、休憩を含まない歩行だけで約10時間前後が参考になります。実際には手続き、休憩、食事、混雑、高度順応を加え、11~13時間以上を想定してください。
2026年は一合目から登っても4,000円かかりますか?
六合目以上へ進み、山頂を目指す場合は1人1回4,000円の通行料が必要です。
馬返しから五合目ゲートまでの区間だけを利用する場合は、指定場所で利用当日の免除申請をした場合に限り、通行料が免除されます。
初心者でも富士山1合目から登れますか?
馬返しから吉田口五合目までの登山であれば、必要な装備と体力を整え、早朝に出発する計画を検討できます。
一合目から山頂まで続ける行程は、初心者向けの短い登山ではありません。まずは低山で長時間歩行を経験し、次に馬返しから五合目までを歩いて、自分の体力と所要時間を確認してください。
馬返しバスで一合目から山頂を目指せますか?
2026年の午前便は馬返し到着が10時のため、その日のうちに山頂まで登る計画には適していません。
山頂を目指す場合は、前日に富士吉田市内へ宿泊し、早朝にタクシーや送迎で馬返しへ入る方法が現実的です。
執筆:神楽 岳志
登山エッセイスト|富士山研究家|自然体験ストーリーテラー


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