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富士山噴火シミュレーション東京都版|首都圏への影響を解説

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富士山から噴き上がった火山灰が上空の風で多摩地域と東京都心へ広がり、物流車両が降灰道路を走る防災イメージ 自然と科学

富士山噴火シミュレーションでは東京に2〜10cm程度以上の降灰、2026年東京都実験では全車種が乾燥5cm・湿潤3cmを走行しました。

ただし、降灰分布は宝永噴火級の規模と実在した高層風を組み合わせた防災上のモデルケースです。実験結果も、火山灰が積もった一般道路での安全な走行を保証するものではありません。

富士山噴火シミュレーションで東京に灰が積もる条件とは?

東京都への影響が大きい想定は、宝永噴火級の噴火が15日間続き、時間変化を含む西南西風卓越時の高層観測データを使った「ケース2」です。

元になったのは、中央防災会議の大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループが2020年4月7日に公表した報告書です。

正式名称は「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~」といいます。

「東京都版の富士山噴火シミュレーション」という独立した予測があるわけではありません。国が計算した複数のケースから、東京都が都内への影響が大きくなるケース2を防災対策の検討材料として紹介しています。

ケース2の計算条件は次のとおりです。

項目 設定された条件
噴火規模・噴出率 1707年の宝永噴火の実績を基に設定
噴火継続時間 15日間
高層風 西南西風が卓越するケース
使用した風の期間 2010年10月14日〜28日
主な降灰方向 神奈川県・東京都を中心とする東北東方面
計算モデル 改良版Tephra2
計算単位 1km相当メッシュ
ケースの特徴 10cm以上の降灰域に含まれる人口・資産が比較的大きい

風向と風速には、気象庁が茨城県つくば市の館野で観測した高層気象データが使われました。降灰分布を左右するのは、私たちが地上で感じる風だけではなく、噴煙が達する上空約5,000〜10,000m付近の風です。

噴出量と噴出率は、宝永噴火の各噴火ユニットに関する研究値を用いて設定されました。火山灰の粒径は、同じ玄武岩質火山である伊豆大島の1986年噴火のデータを参考にし、宝永噴火の堆積状況に近づくよう調整されています。

(出典:中央防災会議「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」別添資料1、2020年4月・1〜5頁)

ここで誤解してはいけないのは、一定方向の同じ風が15日間吹き続けると仮定した計算ではないという点です。

2010年10月14日から28日までに観測された、時間とともに向きや速さが変わる高層風を使った結果を「西南西風卓越ケース」と呼んでいます。

つまり、地図に塗られた色は、東京に必ず積もる灰の厚さでも、次の噴火を予知した結果でもありません。宝永噴火級の噴出推移と、東京方面へ灰が流れやすかった特定期間の高層風を組み合わせたケーススタディです。

ケース1〜3では降灰の中心が変わる

国は噴火規模と継続時間をそろえ、風の異なる三つのケースを計算しました。

ケース 使用した高層風 主な降灰分布
ケース1 2018年12月16日〜30日の西風卓越 神奈川県・千葉県を中心に分布
ケース2 2010年10月14日〜28日の西南西風卓越 神奈川県・東京都を中心に分布
ケース3 2012年9月2日〜16日の変化が大きい南寄りの風 山梨県・静岡県・神奈川県へ広く分布

同じ規模の噴火でも、上空の風が変われば降灰の帯は移動します。新宿区付近では、ケース1やケース3の累積降灰量が4cm以下となる一方、ケース2では10cm前後に達する計算です。

富士山と都心は約100km離れています。しかし、火山灰にとって上空の風は、山麓と首都を結ぶ見えない輸送路です。

距離があるから安全なのではありません。火口、噴出量、噴煙高度、粒径、風向、雨という複数の条件が重なったとき、東京の被害像が決まるのです。


東京都には何cmの火山灰が、いつ降る想定なのか?

ケース2では、多摩地域と23区の大部分に2〜10cm程度以上が積もり、東京都内で除去が必要となる灰は約1.2億立方メートルと試算されています。

1km相当メッシュの計算図と地点別グラフを読むと、東京都内でも降灰量は一様ではありません。

  • 多摩西部:10cmを上回る範囲が広く分布
  • 三鷹市付近:最終的な累積降灰量は15cmを超える水準
  • 新宿区付近:最終的な累積降灰量は10cm前後
  • 23区:広い範囲で2cm以上、一部では10cm前後
  • 東京東部:単純に富士山へ近いほど厚くなるのではなく、時間ごとの風向で分布が変化

これらは区市町村ごとの確定値ではなく、計算メッシュ内の地点付近から読み取った概数です。行政境界を越えた瞬間に灰の厚さが変わるわけではありません。

三鷹市付近の15cm超は別添資料1の14頁、新宿区付近の10cm前後は16頁に掲載されたケース2の地点別グラフから読み取れます。

(出典:中央防災会議「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」別添資料1、2020年4月・12〜16頁)

噴火3時間後から東京にも影響が現れる

ケース2の時系列図では、午前10時に噴火した設定で、3時間後には東京都内にも降灰域が広がっています。6時間後には、多い場所で約4cmに達する範囲が現れます。

(出典:中央防災会議「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」別添資料1、2020年4月・12頁)

新宿区付近では、2日目までに累積降灰量が10cm弱へ近づく計算です。噴火を知ってから買い出しや長距離移動を始めても、鉄道の運休や道路渋滞が先に起きる可能性があります。

ただし、15日間にわたって一定の強さで灰が降り続ける想定ではありません。宝永噴火の推移に基づいて噴出率が変わり、高層風も時間とともに変化します。

実際の噴火では、火口の位置や噴煙高度、噴出量、粒子の大きさ、当日の風、雨の有無によって到達時刻と堆積量が変わります。

約1.2億立方メートルは復旧の重さを表す

東京都内で除去が必要とされる火山灰は約1.2億立方メートル、首都圏全体では約4.9億立方メートルと試算されています。

首都圏の約4.9億立方メートルは、鉄道、道路、建物用地、農地など、一定の土地利用がある場所へ堆積する量です。国の資料では、東日本大震災で生じた災害廃棄物量の約10倍に相当すると説明されています。

(出典:内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」、2025年3月・9頁)

これは「被害が東日本大震災の10倍になる」という意味ではありません。火山灰と津波や倒壊建物による災害廃棄物では、性質も処理方法も異なります。

数字が示しているのは、灰を集め、積み込み、運搬し、仮置きし、処理先を確保する作業の巨大さです。

東京には道路と建物が密集し、集めた灰を置ける土地も限られます。排水溝へ流せば詰まりの原因となり、道路脇へ寄せるだけでは、乾燥した灰が車両や風によって再び舞い上がります。

僕は、10cmや15cmという堆積厚よりも、都内約1.2億立方メートルという復旧量のほうが東京の本質的な弱点を表していると考えています。

降灰災害は、空が暗くなる数時間だけの出来事ではありません。都市が灰を抱えたまま、交通と物流をどう立て直すかという長期戦です。


富士山噴火で東京の交通・電力・物流はどうなる?

東京では溶岩流よりも、少量の火山灰を起点とする鉄道、道路、電力、通信、上下水道、物流の連鎖障害が中心になります。

火山灰は、たき火の後に残る柔らかな灰とは違います。岩石、鉱物、火山ガラスなどが細かく砕けた粒子であり、機械の隙間、電気設備、空調フィルターへ入り込みます。

分野 想定される主な影響
鉄道 レール、ポイント、踏切、信号設備への付着による運転見合わせ
道路 視界不良、スリップ、スタック、故障車、渋滞
空港 滑走路への堆積、航空機エンジンへの危険
電力 湿った灰が碍子へ付着して生じる絶縁低下
通信 停電、設備障害、利用集中による不安定化
上下水道 取水・浄水への影響、排水設備や下水管の詰まり
建物 空調機、室外機、給排気口、雨どいへの侵入
物流 食料、医薬品、燃料、交換部品の配送遅延
健康 目、鼻、喉、気管支への刺激

国の2020年報告では、地上を走る鉄道は微量の降灰でも運行停止が想定されています。ただし、灰が一粒でも落ちれば全路線が自動的に止まるという意味ではありません。

鉄道事業者は、レールだけでなく、ポイント、踏切、信号、電力設備、車両基地の安全を確認しなければ運転を継続できません。

地下鉄も地上から完全に切り離されてはいません。地上区間、車両基地、駅出入口、換気口、変電設備が影響を受ければ、地下区間まで運休が波及する可能性があります。

道路については、乾燥時10cm以上、降雨時3cm以上の降灰で、二輪駆動車の通行が困難になると想定されています。

3cm未満でも安心はできません。降灰中の視界不良、滑りやすい路面、信号や標識の見えにくさ、鉄道停止による交通集中が重なれば、道路機能は灰の厚さだけでは説明できないほど低下します。

※画像はAIによるイメージ

交通障害が怖いのは、移動だけの問題で終わらないからです。

道路と鉄道が止まれば、医療従事者、設備保守員、配送員も移動しにくくなります。燃料や部品が届かなければ、非常用発電機や通信設備も長期間は維持できません。

高層マンションでは、停電によりエレベーターだけでなく給水ポンプが止まる場合があります。携帯電話基地局、冷蔵設備、決済端末にも影響が広がります。

火山灰は都市の「呼吸口」と「関節」に入ります。空調の吸気口、変電設備の碍子、鉄道のポイント、車両の吸気系統、排水溝といった、普段は意識されない場所です。

東京の弱点は、一つの設備が壊れることではありません。交通が止まることで保守と補給も止まり、別の都市機能まで次々に弱くなることです。


2026年東京都の物資輸送車両実験では何が分かった?

東京都は2026年2月18日から20日に疑似灰上の走行実験を行い、無積載・チェーンなしでも全5車種が乾燥5cm、湿潤3cmを走行できたと公表しました。

結果が「Tokyo富士山降灰特設サイト」で公表されたのは、2026年4月14日です。東京都は、降灰時に生活物資を運ぶ大型トラックなどの走行能力と挙動を調べました。

試験コースは延長50m、幅4mです。本物の火山灰ではなく、疑似灰として珪砂4.5号を使い、乾燥状態と湿潤状態を設けています。

降灰厚は3cm、5cm、7cm、10cmの4段階です。車両は軽貨物車、小型貨物車、2tトラック、4tトラック、10tトラックの5種類でした。

前輪がスタート地点を通過してから、中間地点またはゴール地点へ達するまでの時間を計測しています。中間地点では一時停止し、再発進できるかも確認しました。

東京都の早見表では、結果を次の基準で分類しています。

  • ○:平均車速5km/h以上
  • △:平均車速1km/h以上5km/h未満
  • ×:平均車速1km/h未満、スタック、またはコースアウト
  • 「低速走行可」:×のうち、平均車速1km/h未満でも走行できたケース
  • 「デフロック脱出」:走行中にスタックしたものの、デフロック機能で脱出したケース

無積載・チェーンなしの車種別結果

路面・厚さ 軽貨物 小型貨物 2t 4t 10t
乾燥3cm ○ ○ ○ ○ ○
乾燥5cm △ △ △ ○ △
乾燥7cm ×・低速走行可 ×・低速走行可 × △ ×・デフロック脱出
乾燥10cm × ×・低速走行可 × × ×・デフロック脱出
湿潤3cm ○ ○ ○ ○ △
湿潤5cm △ △ △ ○ ×・デフロック脱出
湿潤10cm × × × ×・低速走行可 ×・デフロック脱出

乾燥5cmと湿潤3cmでは全車種がゴールへ達しましたが、多くの車両は平均車速1km/h以上5km/h未満です。

「走行可能」は、日常の道路と同じ速度や安定性で走れたという意味ではありません。特に湿潤3cmの10tトラックは△であり、物流計画では所要時間の大幅な増加も考える必要があります。

乾燥7cmでは4tトラックが△でしたが、ほかの車両は×でした。乾燥10cmと湿潤10cmでは、無積載・チェーンなしの全車種が×に分類されています。

積載と金属チェーンで10cmの結果はどう変わった?

10cmのコースでは、最大積載量まで鉄板を載せる試験と、金属チェーンを装着する試験も行われました。

10cmの条件 軽貨物 小型貨物 2t 4t 10t
乾燥・最大積載 ×・低速走行可 ×・低速走行可 × △ △
湿潤・最大積載 △ △ △ ○ △
乾燥・金属チェーン ○ 未実施 ×・低速走行可 未実施 未実施
湿潤・金属チェーン ○ 未実施 ×・低速走行可 未実施 未実施

最大積載では、乾燥10cmで4t・10tトラックが△、湿潤10cmでは5車種すべてが△以上へ改善しました。空荷よりも駆動輪へ荷重がかかり、疑似灰を捉えやすくなった可能性があります。

金属チェーンを試したのは軽貨物車と2tトラックです。軽貨物車は乾燥・湿潤とも10cmで○となりましたが、2tトラックは平均車速1km/h未満の低速走行にとどまりました。

したがって、「チェーンを装着すれば10cmでも全車両が走れる」とは言えません。車種、駆動方式、荷重配分、タイヤ、灰の水分状態が結果を左右します。

10tトラックには、実験車両で唯一デフロック機能が搭載されていました。無積載時は乾燥7cm・10cm、湿潤5cm・10cmでスタックしましたが、デフロックを使うことで脱出できました。

(出典:東京都「大規模噴火降灰を想定した貨物車両の走行実験」、2026年4月14日公表)

※画像はAIによるイメージ

過去の実車実験と結果が違うのはなぜか?

東京都の結果を読むうえで重要なのが、過去の実験との比較です。

防災科学技術研究所と山梨県富士山科学研究所は、2021年11月に駆動方式の異なる市販車9台を使った走行実験を行いました。2023年12月に科学誌へ掲載された研究では、約10cmを超える降灰で二輪駆動車がスタックしやすく、全輪駆動車は高い走破性を示しています。

この研究では、二輪駆動車へタイヤチェーンを装着しても走破性の向上は確認されませんでした。一方、2026年の東京都実験では、金属チェーンを装着した軽貨物車の結果が改善しています。

(出典:防災科学技術研究所「降灰路面で車両がスタックするメカニズムを解明」、2024年1月23日発表)

両者は単純に矛盾する結果ではありません。

過去の研究は主に市販乗用車の駆動方式や灰厚、走路条件を比較したものです。東京都実験は生活物資を運ぶ貨物車を対象とし、珪砂4.5号、最大積載、金属チェーンという別の条件で調べています。

国土交通省富士砂防事務所も、富士山スコリア10cmや桜島火山灰10cmを敷いたコースで、前輪駆動車、チェーン装着車、四輪駆動車の走行映像を公開しています。

(出典:国土交通省富士砂防事務所「火山灰走行実験」)

本物の火山灰でも、富士山のスコリアと桜島の細かな灰では粒径や形状が異なります。さらに、乾湿、勾配、チェーンの材質、車重、駆動輪への荷重が変われば、同じ10cmでも車両の挙動は変わります。

僕がこの比較から感じるのは、万能な「走行可能ライン」を一本引く危うさです。

必要なのは「何cmまで走れる車か」という単純な認定ではありません。どの車両を、どの路面状態で、どれだけ積載し、どの優先道路へ投入するかという運用設計です。

一般道路へそのまま適用できない理由

東京都の実験は、幅4m、長さ50mの管理されたコースで行われました。実際の道路には、坂道、カーブ、交差点、段差、わだち、マンホール、側溝があります。

降灰中であれば視界も悪くなり、故障車や放置車両、渋滞が進路を塞ぐ可能性もあります。50mを通過できることと、数十kmにわたって安全に物資を届けられることは別です。

疑似灰の珪砂4.5号も、本物の火山灰と同一ではありません。実際の灰は粒径や形状が多様で、硬い火山ガラスを含み、雨量によって流動性や粘り方が変わります。

そのため、「乾燥5cmなら都内のトラックは走れる」「金属チェーンがあれば10cmでも大丈夫」と一般化してはいけません。

今回の成果は走行の許可基準ではなく、輸送計画を具体化するための基礎データです。この限界を明示して読むことが、実験の価値を正しく生かすことにつながります。


2025年国ガイドラインから2026年実験まで対策はどう進んだ?

東京の広域降灰対策は、被害想定を示す段階から、屋内での生活継続、優先道路の除灰、物資輸送を具体化する段階へ進んでいます。

主な経緯を時系列で整理すると、次のようになります。

  • 2020年4月7日:中央防災会議のワーキンググループが、富士山噴火をモデルとする広域降灰報告を公表
  • 2023年12月:東京都が「大規模噴火降灰対応指針」を策定
  • 2025年3月28日:内閣府が「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表
  • 2025年5月28日:東京都防災会議が「東京都地域防災計画 火山編(令和7年修正)」を決定
  • 2025年8月22日:東京都が「Tokyo富士山降灰特設サイト」を開設
  • 2026年2月18日〜20日:東京都が貨物車両の走行実験を実施
  • 2026年3月25日:国と東京都が「首都圏における広域降灰対策具体化協議会」の第1回会合を開催
  • 2026年4月14日:東京都が貨物車両実験の結果を公表

2025年3月の国ガイドラインが掲げた基本方針は、降灰域から一斉に遠方へ避難することではありません。可能な限り降灰域内にとどまり、自宅などで生活を継続することです。

首都圏は人口が多く、東京都と神奈川県だけでも約2,300万人です。一方、1都8県の指定避難所の収容人数は約990万人とされています。

全員が同時に避難すれば、道路と避難所が混乱します。火山灰は徐々に積もり、洪水や地震と比べて緊急的・直接的な命の危険が低いという性質も、屋内での生活継続を基本とする理由です。

ただし、どんな状況でも自宅に残るわけではありません。

ガイドラインは、微量以上の降灰で交通やライフラインへの影響が始まる「ステージ1」から、降雨時に30cm以上の灰で木造家屋の倒壊が懸念される「ステージ4」まで、四つの被害の様相を設定しました。

ステージ4では、噴火直後に自宅や堅牢な建物へ退避したうえで、降灰状況を見ながら原則避難としています。人工透析や介護など、社会活動の低下で生命に危険が及ぶ人は、より早い段階で生活可能な地域へ移動する必要があります。

(出典:内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」、2025年3月・10〜16頁)

優先道路を除灰しても一般車は走らせない

国ガイドラインは、一定の仮定を置いた簡易計算も示しています。

噴火1〜2日目に重機とオペレーターを配置し、3日目の午前0時から1,000台のホイールローダーを投入して、3cm以上の灰が積もった緊急輸送道路の片側1車線ずつを除灰する想定です。

単純計算では4日目の朝に緊急輸送道路の啓開が終わります。しかし、この計算には事故車両や放置車両の撤去、燃料補給、作業員の移動、再降灰への対応などが十分に含まれていません。

何より重要なのは、啓開後の道路が一般車両向けではないことです。緊急車両、復旧車両、物資輸送車両の最低限の通行を確保するための道路と位置づけられています。

(出典:内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」、2025年3月・8頁)

この考え方と2026年東京都実験は、一本の線でつながります。

ガイドラインが「どの道路を先に開けるか」を示し、車両実験が「そこへどの貨物車を投入できるか」を調べているからです。


考察|東京を守る鍵は「走れる車」より「走らせる車の選別」

ここからは、火山地質と富士山の噴火史を見てきた僕自身の考察です。

1707年12月16日に始まった宝永噴火は、約2週間にわたって大量の火山灰を放出し、江戸にも降灰をもたらしました。2020年のシミュレーションが15日間の噴出推移を設定したのは、この宝永噴火をモデルにしたためです。

しかし、2020年の計算は宝永噴火を現代へそのまま再現した映像ではありません。

現在の東京は、江戸時代とは比べられないほど鉄道、道路、電力、通信、上下水道、共同住宅、定時配送へ依存しています。微量の灰でも、精密設備と安全確認を通じて都市活動が止まり得ます。

第一に重要なのは、灰が積もる量と都市機能が止まる量は一致しないことです。

新宿区付近で10cm前後と聞くと、「10cmになるまでは普段どおり動ける」と考えてしまうかもしれません。しかし、鉄道や航空、精密設備は、それより薄い降灰でも停止や点検が必要になります。

第二に、走行可能と物流継続も一致しません。

2026年実験で乾燥5cm・湿潤3cmを全車種が走れたとしても、平均車速が5km/h未満となった車両がありました。実際の道路で速度が落ちれば、同じ時間に運べる物資量は減り、運転手と燃料も余計に必要です。

第三に、積載や金属チェーンは「有効な条件がある」のであって、万能策ではありません。

湿潤10cmの最大積載では全車種が△以上となりましたが、これは管理された疑似灰コースの結果です。物資を多く積めば必ず走りやすくなると断定せず、車種ごとの荷重配分、駆動方式、勾配、制動性能まで検証する必要があります。

過去の市販車実験では、二輪駆動車へのチェーン装着による改善が確認されませんでした。東京都実験との違いは、チェーンの有効性を一つの結論に固定するのではなく、実車、実灰、坂道、長距離走行を含む追加検証が必要だと教えています。

第四に、一般車両を動かさない判断が重要です。

都内約1.2億立方メートルの灰を一斉に片づけることは現実的ではありません。病院、消防署、浄水場、変電所、物流拠点へ通じる道路から優先して除灰する必要があります。

その道路へ自家用車が集中し、故障車やスタック車が並べば、走破性の高いトラックも通れません。灰そのものより、車両による閉塞が復旧を遅らせる可能性があります。

だから僕は、東京の降灰対策を「灰の上を走れる車の開発」だけで考えるべきではないと思います。

重要物資を運ぶ車両だけを選び、それ以外の車両と人の移動を抑える仕組みまで整えて、初めて輸送路は機能します。

家庭は「すぐ避難」より生活継続の備えをする

国ガイドラインの基本方針に沿えば、東京の家庭が最初に行うべきことは、自家用車で遠方へ逃げる準備だけではありません。

地震用の備蓄を土台に、灰から目、呼吸器、室内設備を守る用品を加えることが現実的です。

  • 水、保存食、常用薬
  • 非常用トイレ、衛生用品
  • 携帯ラジオ、懐中電灯、予備電池
  • モバイルバッテリー
  • 顔に合う防じん性能の高いマスク
  • 隙間の少ないゴーグル
  • 手袋、長袖の上着
  • コンタクトレンズ使用者の予備眼鏡
  • 乳幼児、高齢者、持病のある人、ペットに必要な用品

備蓄は最低3日分を土台とし、家庭の事情が許せば1週間程度を意識します。物流が止まる可能性を考えると、食料だけでなく薬、衛生用品、非常用トイレの不足も見逃せません。

降灰中は不要不急の外出と車移動を避けます。目に灰が入ってもこすらず、コンタクトレンズの使用は控えたほうが安全です。

灰を排水溝へ流すと詰まりを招く恐れがあります。空調機や室外機、給排気口の扱いは、メーカーや建物管理者の案内に従ってください。

企業は出社停止と優先業務を事前に決める

企業の事業継続計画では、全社員をどう出社させるかより、誰を出社させないかを先に決める必要があります。

  • 降灰予報と交通情報に基づく出社停止基準
  • 在宅勤務へ切り替える判断者
  • 停電時も続ける重要業務
  • 従業員が施設内にとどまる場合の備蓄
  • 空調、サーバー、発電設備の停止・保護手順
  • 清掃担当者の防護具
  • 回収した灰の仮置き場所
  • 物流停止時の在庫と代替調達
  • ビル管理会社、配送会社、取引先との連絡方法

鉄道が止まった後に一斉帰宅を指示すれば、駅と道路へ人が集中します。灰の中を長距離歩くことが、屋内にとどまるより安全とは限りません。

非常用発電機があっても、燃料補給車が届かなければ運転は続きません。「倉庫に物資があること」と「必要な場所まで運べること」は別の問題です。

霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ています。見えない日は危険まで消えたように感じますが、備えとは、見えない時間にこそ形にするものです。


まとめ|降灰想定は予知ではなく輸送と生活継続の設計図

富士山噴火シミュレーションのケース2では、東京の広い範囲に2〜10cm程度以上の降灰が想定されていますが、これは宝永噴火級の噴出推移と特定期間の高層風を使ったモデルケースです。

2026年東京都実験では、全5車種が乾燥5cm・湿潤3cmを走行しました。一方、厚い疑似灰では積載、金属チェーン、デフロックの有無によって結果が分かれ、一般道路へ単純に適用できない限界もあります。

2025年の国ガイドラインが示す基本は、可能な限り自宅などで生活を継続し、一般車両の移動を抑えながら、緊急輸送道路と重要物資の流れを守ることです。

富士山の降灰想定は恐怖を予告する地図ではありません。誰が動き、誰がとどまり、どの道路と都市機能を先に回復させるかを決めるための設計図なのです。

参照した主な一次資料

  • 中央防災会議「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~」(2020年4月7日公表)
  • 同報告・別添資料1「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」(2020年4月)
  • 東京都「大規模噴火降灰対応指針」(2023年12月)

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