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富士山噴火のVEIとは?火山爆発指数で見る過去噴火の規模比較

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巨大な噴煙を上げる荒々しい活火山とそれを見上げる人々のシルエット 自然と科学

富士山噴火の規模を示す「VEI(火山爆発指数)」とは、噴出物の体積で爆発の大きさを0〜8で評価する世界基準の指標です。

過去の富士山における最大の爆発である宝永大噴火(1707年)は「VEI 5」に分類されており、仮に同規模の噴火が現代に起きれば、首都圏のインフラに甚大な影響を及ぼし、長期的な都市機能の低下をもたらすと想定されています。

ニュースや防災特集で「富士山の噴火」が取り上げられる際、必ずと言っていいほど耳にするのが「宝永大噴火クラス」という言葉です。

では、その規模はいったいどの程度のものなのでしょうか。

それを客観的に測る物差しが「VEI(火山爆発指数)」です。

今回は、富士山研究家であり登山エッセイストである僕の視点から、このVEIという指標を紐解き、過去のデータと比較しながら富士山噴火が現代社会にもたらす影響と被害想定のリアルに迫ります。

富士山噴火の規模を測る指標「VEI(火山爆発指数)」とは?

火山が噴火したとき、そのエネルギーや規模をどのように比較すればよいのでしょうか。

地震であれば「マグニチュード」や「震度」がよく知られていますが、火山の場合は少し事情が異なります。

火山の爆発規模を示す代表的な指標が、VEI(Volcanic Explosivity Index:火山爆発指数)です。

これは1982年にアメリカ地質調査所(USGS)のクリス・ニューホール氏とハワイ大学のスティーブン・セルフ氏によって提案された世界共通の尺度です。

VEIの特徴は、火山の大きさそのものではなく、「その時起きた噴火の爆発の大きさ」を示している点にあります。

VEIはどうやって決まるのか?

VEIの区分は、非常にシンプルです。それは「噴出物(テフラ)の量」によって決定されます。

テフラとは、火山灰や軽石、火山弾などの総称です。

このテフラの体積がどれくらい放出されたかによって、VEIは0から8までの9段階に分けられます。

VEIの値が1上がるごとに、噴出物の体積は原則として「10倍」になります(ただし、VEI 0からVEI 2の間は少し異なります。VEI 1とVEI 2の間には100倍の差が設定されています)。

例えば、VEI 0はテフラの体積が1万立方メートル未満の「非爆発的」な噴火を指し、最大のVEI 8は1000立方キロメートル以上という想像を絶する「破局噴火」を指します。

対数スケールが用いられているため、数字が1つ上がるだけで、その破壊力と被害範囲は文字通り桁違いに拡大することになります。

VEIの利点と欠点

この指標の素晴らしい点は、「有史以前の古い噴火であっても、地層に残された堆積物を調べることで規模を推定できる」という利便性にあります。

人類が観測していなかった時代の噴火でも、地層の厚さや広がりをボーリング調査などで調べることで、過去の爆発の大きさを数値化できるのです。

一方で、火山学的な観点から見ると欠点もあります。それは「噴火のエネルギーそのものは意味しない」ということです。

火山灰であれイグニンブライト(火砕流堆積物)であれ、種類に関わらず「量」だけで判定されるため、同じテフラの量でも放出に必要な熱エネルギーが異なる場合があります。

また、ハワイのキラウエア火山のように、静かに流れ出す大量の溶岩はVEIの計算には大きく反映されません。

そのため、日本の火山学者である早川由紀夫氏は、マグマの質量で噴火の規模を表現する「噴火マグニチュード」という別の指標も提唱しています。

それでもなお、世界中の多様な火山噴火をひとつのスケールで直感的に比較・分類するうえで、VEIは極めて強力で分かりやすい物差しとして機能しています。


火山爆発指数(VEI)で見る過去の規模比較

では、私たちがよく知る過去の火山噴火は、VEIで分類するとどのレベルに該当するのでしょうか。

歴史上の有名な噴火や、日本の火山の事例を交えて、VEI 3からVEI 6までの規模を比較してみましょう。

VEI 規模の目安 噴出物の体積 過去の代表的な噴火事例(発生年)と推定体積
VEI 3 やや大規模 0.01km³以上 雲仙岳(1990-95年)、ネバド・デル・ルイス(1985年)、有珠山(1977年)
VEI 4 大規模 0.1km³以上 桜島・大正大噴火(1914年)、浅間山(1783年)、エイヤフィヤトラヨークトル(2010年)
VEI 5 非常に大規模 1km³以上 富士山・宝永大噴火(1707年)、セント・ヘレンズ山(1980年)、フンガ・トンガ(2022年)、ヴェスヴィオ(79年)
VEI 6 巨大 10km³以上 ピナトゥボ山(1991年・約10km³)、クラカタウ(1883年・約20km³)、十和田カルデラ(915年)

この表を見ると、一つの恐ろしい事実が浮かび上がってきます。

私たちの記憶に新しい、1990年代の雲仙普賢岳の噴火は、火砕流による甚大な被害をもたらし日本中を震撼させましたが、VEIの基準では「3」に分類されます。

大正時代に桜島と大隅半島を大量の溶岩で陸続きにしてしまったほどの桜島大正大噴火や、江戸時代に利根川水系に大泥流をもたらした浅間山の天明大噴火(1783年)は「VEI 4」です。

そして、富士山の宝永大噴火(1707年)は、それらをさらに一段階上回る「VEI 5(非常に大規模)」にランク付けされているのです。

VEI 6以上の噴火は地球規模での気候変動(火山の冬)を引き起こすレベルですが、VEI 5であっても、一国の首都圏を壊滅的な状況に追い込むには十分すぎる破壊力を持っています。

※画像はAIによるイメージ

富士山の過去の噴火:VEI 5の「宝永大噴火」とは?

富士山の歴史を火山地質学の視点から紐解くと、約5600年の間に大小合わせて約180回もの噴火を繰り返してきたことが分かっています。

平均すると、おおよそ30年に1回のペースで火を噴いていた計算になります。

その中でも、文字による記録が詳細に残されている有史以降で最大の規模を誇るのが、1707年(宝永4年)に発生した宝永大噴火です。

この大噴火は、巨大な南海トラフ地震である「宝永地震」のわずか49日後に誘発される形で発生しました。

噴火は山頂からではなく、南東の山腹から強烈な爆発を起こしました。これが、現在もぽっかりと口を開けている「宝永火口」です。

普段の富士山とは異なる「プリニー式噴火」

本来、富士山は玄武岩質と呼ばれる粘り気の少ないマグマが特徴で、ハワイの火山のように溶岩を比較的穏やかに流す噴火が多い山です。

しかし、宝永大噴火の最大の特徴は、溶岩が流れ出すのではなく、強烈な爆発によって大量の軽石や火山灰(テフラ)を上空20キロメートルもの高さに吹き上げた「プリニー式噴火」であったことです。

研究によれば、この時のマグマは地下深くの玄武岩質マグマに、より粘り気の強いデイサイト質〜安山岩質のマグマが混ざり合ったことで、爆発的な性質に変化したと考えられています。

VEI 5に分類されるこの噴火では、推定で約1.7立方キロメートルという膨大な量のテフラが放出されました。

江戸の空を黒く染めた火山灰

当時の強い西風(偏西風)に乗った火山灰は、現在の神奈川県から東京都、さらには千葉県にまで達し、江戸の空を真っ暗に覆い尽くしました。

新井白石の自叙伝『折たく柴の記』には、当時の恐ろしい様子が克明に記されています。

白石の記録によれば、江戸市中でも白い灰が雪のように降り積もり、昼間でも行灯(あんどん)が必要なほどの暗闇が数週間にわたって続いたとされています。

江戸時代の木造インフラであっても、火山灰の重みによる家屋の倒壊、農作物への壊滅的な被害、そして降灰後の雨による土石流など、人々の生活に致命的な打撃を与えました。

当時の幕府は、酒匂川流域に堆積した大量の火山灰を取り除く「砂除川ざらえ」などの大規模な公共事業を余儀なくされ、復興には数十年という途方もない歳月と莫大な費用が費やされました。

それがもし、現代の高度に電子化・都市化された首都圏で起きたらどうなるのでしょうか。


現代に富士山が「VEI 5」規模で噴火した場合の影響と被害想定

沈黙を続ける富士山が、もし明日、宝永大噴火と同じ「VEI 5」クラスの爆発を起こしたらどうなるのか。

山梨県富士山科学研究所の主幹研究員である吉本充宏氏の知見や、内閣府・富士山火山防災対策協議会が公表しているシミュレーションによれば、現在の首都圏が受けるダメージは私たちの想像をはるかに超えるものになると想定されています。

降灰シミュレーションが示す都市機能の麻痺

降灰の被害は、噴火が起きる「季節」と「風向き」に大きく左右されます。

宝永大噴火が起きたのは旧暦の11月(現在の12月)であり、上空に強い西風(偏西風)が吹いている季節でした。

国の中央防災会議のシミュレーションでも、最も首都圏への被害が大きくなる「秋から冬の西風」を前提とした場合、深刻な事態が予測されています。

富士山周辺の静岡県や山梨県では数十センチの降灰が予想されるのはもちろんですが、風向きによっては、横浜市や東京都町田市などで10センチ以上、東京都心の新宿区などでも2〜10センチの火山灰が降ると予測されています。

降灰量が全体でどれくらいになるかというと、吉本氏によれば「2011年の東日本大震災で発生した災害廃棄物(瓦礫)の約10倍」にも及ぶ膨大な量になると想定されているのです。

具体的に、私たちの生活基盤にはどのような影響が出る可能性があるのでしょうか。以下に想定される主な被害を整理します。

  • 交通網の広範な麻痺(陸・海・空)

火山灰は雪とは異なり、硬いガラスの破片です。わずか数ミリの灰が線路に積もるだけで車両はスリップし、微弱電流が遮断されて信号機が誤作動を起こすため、鉄道は運行を見合わせる可能性が高いです。
道路も同様で、降雨時に数センチも灰が積もれば、一般車両はスリップして走行不能に陥る危険性が極めて高くなります。航空機はエンジンが火山灰を吸い込めば停止する恐れがあるため、羽田・成田空港などの主要空港は閉鎖され、空の物流網は瞬時にストップすると予測されています。

  • 電力供給の低下と大規模停電のリスク

送電線の碍子(がいし)に火山灰が積もった状態で雨が降ると、「絶縁破壊」が起きてショートし、大規模な停電が発生するリスクがあります。
さらに、東京湾沿岸に集中する火力発電所でも、火山灰が吸気フィルターを目詰まりさせれば、発電所の稼働が困難になる可能性が指摘されています。

  • 水道と通信への影響

浄水場の浄化設備が灰によって詰まれば、広範囲で断水が起こる可能性があります。また、携帯電話の基地局も、アンテナへの灰の付着や長時間の停電によって、深刻な通信障害を引き起こす恐れがあります。

このように、都市機能が著しく制限され、食料や水の補給が滞るという事態が長期間にわたって続く可能性が想定されているのです。

※画像はAIによるイメージ

富士山噴火の予測は可能なのか?

これほど恐ろしい被害が予想されるのであれば、「いつ噴火するのか」を事前に知りたいと思うのが人間の心理です。

しかし、吉本氏も明確に述べている通り、現在の火山学の観点から「長期予測」は不可能です。

数年先、あるいは数十年先に富士山がいつ噴火するかをピタリと当てることは、数年先の天気を当てるのと同じように困難を極めます。

一方で、観測網が発達した現在、「短期予測」についてはある程度可能だとされています。

気象庁は24時間体制で富士山周辺の地震計や傾斜計、GPSなどを通じて監視を続けており、地下のマグマが上昇してくれば、火山性地震(低周波地震)が増加し、地殻変動が起こります。

そうした「噴火の兆候」を数日から数週間前につかみ、噴火警戒レベルを引き上げることは十分に可能です。

ただし、吉本氏が指摘するように、「兆候はつかめても、それがどの程度の規模(VEI)の噴火になるかまでは事前には予測しきれない」というのが厳しい現実です。

噴火が始まって初めて、それがVEI 2程度の小規模なものか、VEI 5の宝永大噴火クラスなのかが判明するのです。


【考察・見通し】ハザードマップ改定と広域避難計画が示す真の備え

富士山は、宝永大噴火から現在に至るまで、300年以上の長きにわたり沈黙を守っています。

過去の平均ペース(30年に1回)から見れば、異例とも言える空白期間であり、地下のマグマだまりには十分なマグマが充填されていると考えられています。

火山防災の専門的視点から見ると、行政もこの危機感に対して明確な動きを見せています。

その象徴が、2021年に17年ぶりに行われた「富士山ハザードマップ」の大幅な改定です。

この改定の背景には、明確な地質学的理由があります。近年の技術の進歩により、過去の溶岩流の痕跡を示すボーリング調査や年代測定が飛躍的に進みました。

その結果、これまでは想定されていなかった広範囲において、有史以前の未知の火口跡が多数発見されたのです。

想定される火口の範囲が広がったということは、それだけ市街地に近い場所からマグマが噴出するリスクが高まったことを意味します。

これにより、溶岩流が市街地に到達するまでの時間が大幅に見直され、一部地域ではこれまでの「数時間」から「数十分」へと大きく短縮されました。

さらに、このハザードマップ改定を受けて、山梨・静岡・神奈川の3県などによる富士山火山防災対策協議会は、2023年に広域避難計画を改定しました。

ここで特筆すべきは、原則として「車ではなく徒歩での避難」を基本とするよう方針が大きく転換された点です。

なぜ、車ではなく徒歩なのか。そのロジックは極めて現実的な危機感に基づいています。

火山灰がわずかでも路面に積もると、タイヤの摩擦係数は雪道以上に極端に低下し、スリップ事故が多発します。

過去の様々な自然災害において、一斉に車で避難しようとした結果、道路が完全に大渋滞し、逃げ遅れるケースが後を絶ちませんでした。

降灰による車両の走行不能と、それに伴う立ち往生が致命的なボトルネックになるというデータと教訓から、より確実な「徒歩での避難」が原則化されたのです。

富士山を研究し、地理学・火山学の知見を追い続けてきた筆者としては、今回のハザードマップ改定や広域避難計画の厳格化を、極めて科学的かつ合理的な判断だと評価しています。

富士山の噴火は、オカルトでもSFでもありません。地球のダイナミズムからすれば、周期的に繰り返される自然現象の一つに過ぎません。

筆者としては、富士山噴火を過度に恐れてパニックになる必要はないと考えます。この「300年の沈黙」を不気味なものとして捉えるのではなく、私たちが備えを固めるための「猶予期間」として受け止めるべきです。

富士山噴火への備えは、基本的には「首都直下型地震や南海トラフ地震への備え」と同じです。

水や食料、簡易トイレの備蓄はもちろんのこと、降灰への特有の備えとして「ゴーグル(密着性の高い防塵用のもの)」や「N95などの高性能な防塵マスク」を防災リュックに加えておくことが極めて重要です。

ガラスの粉である火山灰を吸い込めば呼吸器に深刻なダメージを与え、目に入れば角膜を傷つけます。

物流が長期にわたって制限される可能性を見越し、最低でも2週間程度は自宅で安全に過ごせるだけの心の準備と物資の備蓄が、現代社会に生きる私たち一人一人に求められています。

私たちは正しい知識と地質学的なデータに基づき、畏敬の念を持って自然の力と向き合っていく必要があります。


まとめ

この記事では、富士山の過去の噴火規模を客観的に評価するため、「VEI(火山爆発指数)」という指標に基づき、以下のポイントを解説しました。

  • VEIとは:噴出物(テフラ)の体積によって、火山の爆発規模を0〜8の対数スケールで示す世界的な区分。
  • 宝永大噴火の規模:1707年の宝永大噴火は「VEI 5(非常に大規模)」に分類され、桜島大正噴火(VEI 4)などを凌ぐ巨大なエネルギーだった。
  • 現代の首都圏への影響:西風が強い季節に同規模の噴火が起きれば、数週間にわたる降灰により、交通網の麻痺、大規模停電のリスク、断水など都市機能が致命的な打撃を受けると想定されている。
  • 最新の防災対策と備え:2021年のハザードマップ改定で、地質学的な調査結果から被害想定が厳格化。避難時の渋滞リスクを回避するため「徒歩避難」が原則に。高性能な防塵マスクやゴーグルなど「火山灰から身を守る」ための2週間分の準備が不可欠。

富士山は日本の象徴であると同時に、強大なエネルギーを秘めた活火山でもあります。そのメカニズムとリスクを正しく知り、いつか必ず来るその日に向けて、冷静な備えを進めておきましょう。


よくある質問

富士山はいつ噴火しますか?

数年〜数十年先を当てるような長期予測は現在の火山学では不可能です。ただし、過去5600年で約180回(平均30年に1回)噴火しており、現在は300年以上沈黙しているため、いつ噴火してもおかしくない状態と言えます。直前のマグマ上昇による兆候(火山性地震や地殻変動など)は、気象庁の観測データから数日〜数週間前に捉えることが可能だとされています。

富士山が噴火したら津波は発生しますか?

富士山が噴火した場合、周辺で直下型地震が発生する可能性はありますが、富士山の立地と想定されるメカニズムから、噴火に直接伴って海で津波が発生することはありません。過去の宝永地震(津波が発生した南海トラフ地震)のように、巨大地震が先に起きてから噴火が誘発されるケースは歴史上に存在します。

富士山の噴火に向けて何を準備すればいいですか?

基本的には大規模地震への備え(水、食料、カセットコンロ、簡易トイレなどの備蓄)と同じです。これに加え、火山灰特有の対策として、目を守るための密閉性の高いゴーグルや、微小なガラス片である灰を吸い込まないための防塵マスク(N95規格など)を用意しておくことが非常に重要です。降灰による物流停止を見越し、最低でも2週間程度の在宅避難を想定した備えが推奨されます。

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