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富士山噴火でライフラインはどうなる?電気・水道・通信の備え

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富士山の広域降灰で電気・水道・通信が連鎖的に停止する首都圏と家庭の防災備蓄 自然と科学

富士山の大規模噴火では、首都圏でも降灰により電気・水道・通信が連鎖的に止まる可能性があります。

内閣府の2025年3月28日公表「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」が扱うモデルケースでは、噴火から約3時間後に東京都心を含む関東圏で微量以上の降灰が始まります。

ただし、約3時間、降灰3ミリなどの数値は予報や一律の停止基準ではありません。重要なのは、降灰と雨により停電が起こり、道路の機能低下を介して断水や通信障害が長引く連鎖に備えることです。

富士山噴火でライフラインが止まる条件とは?

首都圏のライフラインを脅かす主因は、富士山から直接到達する溶岩流ではなく、風で運ばれる火山灰です。

中央防災会議の「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」は、宝永噴火級の大規模噴火をモデルとして、2020年4月7日に首都圏への影響をまとめました。

その後、内閣府は2025年3月のガイドラインで、降灰量に応じた住民行動、道路啓開、物資供給、ライフライン維持、火山灰処理の考え方を整理しています。

まず、ライフラインごとの「想定される条件」「起こり得る障害」「家庭の行動」を一つの表で確認しましょう。

設備・分野 障害につながる主な条件 起こり得る障害・注意点 家庭で優先する行動
電力 降雨時に0.3センチ、つまり3ミリ以上の降灰 碍子の絶縁低下による停電。数センチ以上では火力発電所の吸気フィルター交換増加などによる供給力低下 照明、通信、医療機器の電源を優先する
上水道 原水の水質悪化が浄水能力を超える、または浄水場・配水施設が停電する 飲用制限、給水制限、断水。集合住宅では建物ポンプ停止による断水もある 飲料水と給水容器を備蓄する
下水道 灰による雨水管の閉塞、処理施設やポンプの停電、非常用燃料の枯渇 排水能力の低下、下水道の使用制限、逆流やあふれ 携帯トイレへ切り替え、灰を排水口へ流さない
携帯通信 利用集中、停電、非常用電源の燃料切れ、降雨時のアンテナへの灰付着 通話の輻輳、基地局停止、通信速度低下 短いメッセージ、伝言サービス、ラジオを併用する
固定回線 家庭や集合住宅の通信機器が停電する、回線設備が故障する 光回線が無事でもルーターや終端装置が止まれば利用不能 機器用電源と紙の連絡先を用意する
道路 乾燥時10センチ以上、降雨時3センチ以上の降灰 二輪駆動車が通行不能となる想定。数値未満でも視界不良、スリップ、渋滞が発生し得る 車で買い出しや避難ができる前提を捨てる
鉄道 微量以上の降灰、停電、車両や作業員の不足 地上路線の運休。地下路線も停電や需要集中で停止・輸送力低下の可能性 むやみに一斉帰宅せず、安全な場所で待機する
物流 鉄道・道路の停止、倉庫や店舗の停電、燃料不足 水、食品、薬、燃料、交換部品の配送遅延 平時から生活物資を循環備蓄する

表の数値は、2020年4月報告の「3.降灰による影響(1)各分野で生じる影響の閾値」本文9~10頁に示された対策検討用の目安です。

報告書自身も、粒径、乾湿、施設の整備状況などによって影響の発生条件が変わり、実際の噴火時に数値どおりの被害が起こるとは限らないと注意しています。

水道と通信には、電力の「降雨時3ミリ以上」のような一律の数値基準が示されていません。水質、停電、設備、非常用燃料、道路状況などが重なって停止するためです。

内閣府の2025年ガイドライン本文5~6頁、図Ⅰ-2-1・図Ⅰ-2-2の約3時間という想定も、宝永規模の噴火に、西南西風が卓越する特定期間の気象条件を組み合わせたケース2に基づきます。

東京へ必ず3時間で灰が届くという予報ではありません。風向・風速、噴火規模、噴煙の高さ、継続時間が変われば、降灰する地域と到達時刻も変わります。

それでも約3時間という短さは重要です。噴火を知ってから水や電池を買いに行くのでは、鉄道の運休、道路混雑、店舗への集中に間に合わない可能性があるからです。


富士山噴火で電気はなぜ止まる?

電気の停止につながる主条件は、降灰、雨、電力設備への灰の付着が重なることです。

電線を支える碍子は、電気が鉄塔や電柱へ漏れることを防ぐ部品です。表面に火山灰が付着して雨や湿気でぬれると、電気が流れやすい経路が生じ、漏電や放電につながる可能性があります。

2020年4月報告の本文9頁では、降雨時に0.3センチ、つまり3ミリ以上の降灰がある地域で、碍子の絶縁低下による停電が発生する想定が示されました。

これは「3ミリに達した瞬間に必ず停電する」という判定線ではありません。碍子の形状、灰の性質、雨量、地中化の状況、塩害対策、設備の清掃状態によって結果は変わります。

内閣府の2025年ガイドライン本文52頁は、送配電線の地中化や碍子の塩害対策により、碍子表面に電気の通り道ができることを防げる場合、降灰に伴う停電の抑制に有効だと整理しています。

同じ3ミリでも、乾いている灰と湿った灰では意味が違うのです。薄い灰だから安全だと考えず、降雨の予報も合わせて確認する必要があります。

火力発電所の供給力低下も停電の原因になる

2020年報告の本文9頁は、数センチ以上の降灰で、火力発電所の吸気フィルター交換頻度が増えることなどにより、発電量が低下する可能性を示しています。

火力発電設備は燃焼や冷却のために大量の空気を取り込みます。細かな灰が吸気設備へ入り込めば、フィルターの目詰まりや交換作業が増え、運転能力が制限される恐れがあります。

個別の送電線が無事でも、発電量の低下が著しく、需要抑制や地域間の電力融通を行っても供給力が不足すれば、停電へ至る可能性があります。

筆者として注目したいのは、富士山から遠い地域でも、電力供給網を通じて影響を受け得ることです。

都市の停電リスクは、自宅に何センチ積もったかだけでは決まりません。東京湾岸などに集まる発電機能、広域送電網、需要の大きさを一つの系として見る必要があります。

集合住宅では停電が先に「建物内断水」を起こす

戸建て住宅と集合住宅では、停電後の水の止まり方が異なります。

水道本管の圧力で直接給水される住宅では、本管が機能している間は停電中も水が出る場合があります。一方、受水槽や増圧給水ポンプを使う集合住宅では、停電でポンプが止まると、本管が無事でも上層階へ水を送れなくなる可能性があります。

エレベーター、オートロック、機械式駐車場、換気設備、電気式給湯器も同時に使えなくなるかもしれません。

集合住宅の住民が平時に確認すべきなのは、次の四点です。

  • 給水方式が直結式、増圧式、受水槽式のどれか
  • 非常用電源から給電される設備
  • 非常用電源のおおよその稼働条件
  • 停電時の給水場所と携帯トイレの保管場所

非常用電源がある建物でも、すべての設備を長時間動かせるとは限りません。「発電機あり」だけで安心せず、給水ポンプや共用通信設備が給電対象かを管理会社や管理組合へ確認してください。

※画像はAIによるイメージ

富士山噴火で水道・下水道・トイレはどうなる?

水道の停止につながる主条件は、原水の水質悪化、浄水能力の超過、停電、ポンプ停止、非常用燃料の不足です。

河川や貯水池へ火山灰が入ると、原水の濁りや水質が変化します。浄水処理の能力を超えれば、水道水が飲用に適さなくなったり、取水・給水を制限したりする可能性があります。

さらに、浄水場、配水施設、ポンプ場は電力を必要とします。非常用発電設備があっても、燃料を補給できなければ運転を続けられません。

道路上の灰や渋滞で燃料車が到着できなくなると、壊れていない施設まで止まる恐れがあります。水道被害を「水質だけの問題」と見てはいけない理由です。

東京都水道局はどのような降灰対策を進めてきた?

東京都議会公営企業委員会の2023年速記録では、東京都水道局が2021年度から、東京都と神奈川県に降灰分布の中心がある想定ケースを対象として調査・実験を行ったことが説明されています。

その結果、富士山に近い相模川水系の長沢浄水場では、浄水処理後の水が水質基準値を上回る恐れが確認されました。一方、当時の調査対象となったその他の浄水場では、水質への影響がないことを確認したとされています。

長沢浄水場については、沈殿池への火山灰混入を抑えるため、シート型の覆いを整備する方針が示されました。

これは、首都圏の水道が一斉に同じ理由で止まるわけではないことを示す具体例です。水源、想定降灰量、浄水方式、施設の防護対策によって影響は変わります。

東京都水道局は、浄水場や給水所の非常用発電設備、送水経路の複数化、施設間のバックアップ機能、応急給水体制の強化も進めています。

ただし、事業者側の対策があることと、各家庭の蛇口から必ず水が出続けることは同じではありません。地域の配水施設が動いていても、建物内ポンプが止まれば住戸では断水します。

下水道が止まれば水があってもトイレは流せない

下水道の使用制限につながる主条件は、雨水管への灰の堆積、処理施設や排水ポンプの停電、非常用燃料の枯渇です。

2020年報告の本文10頁では、降雨時に下水管路が閉塞し、上流側から雨水があふれる可能性が示されています。

火山灰をトイレ、洗面台、道路の側溝、雨水ますへ流すと、灰が低い場所や管の狭い部分へ集まり、排水能力をさらに下げる恐れがあります。

上水道が復旧しても、下水道が使用可能とは限りません。自治体や建物管理者から使用可否が示されるまでは、携帯トイレへ切り替える判断が必要です。

水とトイレは、次のように分けて備えます。

  • 飲料・調理用の水
  • 給水所から運ぶ清潔な容器や給水袋
  • 家族の使用回数に合わせた携帯トイレ
  • 防臭袋、ポリ袋、手指衛生用品
  • 乳幼児、高齢者、持病のある人に必要な追加分
  • 水道と下水道の使用可否を確認する情報源

内閣府の2025年ガイドライン本文46頁「5.物資供給(1)物資供給の考え方」は、首都直下地震対策でも推奨される1週間分、可能であればそれ以上の備蓄が望ましいとしています。

その根拠として、宝永噴火では噴火が約2週間継続したことも記されています。ただし、すべての地域で一律に2週間断水するという意味ではありません。

世帯人数、保管場所、健康状態を踏まえ、普段使う水や食品を少し多く置き、使った分を補充するローリングストックが現実的です。


富士山噴火でスマホやインターネットは使える?

通信の停止につながる主条件は、利用集中、基地局や家庭内機器の停電、非常用電源の枯渇、降雨時のアンテナへの灰付着です。

噴火直後は、多くの人が一斉に安否確認を行うため、基地局が壊れていなくても電話がつながりにくくなる可能性があります。

これは「輻輳」と呼ばれる状態です。音声通話が難しい場合でも、短いテキストメッセージや災害用伝言サービスを利用できる可能性があります。

ただし、通信設備そのものが止まれば、メッセージも送れません。スマートフォンを充電できることと、通信網が利用できることは別の問題です。

基地局は非常用電源が尽きると停止する

携帯基地局や通信ビルには、蓄電池や非常用発電設備を備えた施設があります。しかし、すべての設備が同じ時間だけ稼働できるわけではありません。

停電が長引き、蓄電池や発電機の燃料が尽きれば、基地局や通信設備が停止する可能性があります。

実際にNTT東日本は、2011年3月11日の東日本大震災で、津波被害に加えて停電時の燃料不足が通信サービスへ大きな打撃を与え、予備電源の燃料や蓄電池の枯渇に伴うサービス停止が起きたと説明しています。

その後の対策として、ネットワークの多重化、移動電源車、タンクローリー、災害対策機器などの強化が進められました。

これは火山災害の実例ではありません。しかし、道路障害で燃料補給が滞ると通信設備が停止するという因果を示す重要な教訓です。

広域降灰では、道路が乾燥時10センチ以上、降雨時3センチ以上の灰で二輪駆動車が通行不能となる想定があります。そこまで積もらなくても、視界不良やスリップ、渋滞で電源車や作業員の移動が遅れる可能性があります。

固定電話と光回線も家庭内の停電に左右される

光回線が物理的に切れていなくても、家庭にある光回線終端装置、ルーター、電話機へ給電できなければ、インターネットやIP電話は使えません。

集合住宅では、共用部の通信設備や電源が停止し、複数の住戸が同時に接続できなくなる場合もあります。

固定電話は契約方式や機器構成によって停電時の挙動が異なります。自宅の電話が従来型回線なのか、光回線を利用するIP電話なのかを確認しておきましょう。

通信対策は、次の三層で考えると整理できます。

  • 端末:スマートフォン、充電器、モバイルバッテリー
  • 通信網:携帯回線、固定回線、災害用伝言サービス
  • 通信を使わない約束:紙の連絡先、集合場所、待機方針

僕は山で通信を確保するとき、常に電波を探し続ける使い方を避けます。連絡や情報確認を行う時間を決め、その間は画面を暗くし、不要な通信を止めて電池を残します。

都市防災でも同じです。家族が別々の場所にいる場合は、「つながるまで電話を繰り返す」のではなく、伝言を残す場所、確認時刻、帰宅できない場合の待機先を決めておく方が、電池と通信網の双方を守れます。

※画像はAIによるイメージ

電気・水道・通信はどの順番で止まり得る?

筆者としては、富士山噴火によるライフライン被害を理解するには、個別の停止日数よりも、どの機能が次の機能を支えているかを見ることが重要だと考えます。

想定される連鎖を時間順に並べると、次のようになります。

1. 噴火直後、安否確認が集中し、電話の輻輳が始まる
2. モデルケースでは約3時間後、都心を含む関東圏で微量以上の降灰が始まる
3. 地上鉄道が運休し、人と車が道路へ集中する
4. 降灰と雨が重なった地域では、碍子の絶縁低下による停電リスクが高まる
5. 停電により、建物の給水ポンプ、ルーター、エレベーターなどが止まる
6. 道路状況が悪化し、燃料車、修理要員、給水車、物資輸送が遅れる
7. 非常用電源の燃料が尽きると、基地局、浄水・配水施設、下水ポンプの停止が広がる
8. 電力が復旧しても、除灰、点検、部品交換が終わらず、設備ごとに回復時期がずれる

この順番は確定した被害予測ではありません。降灰量、雨、各施設の対策、非常用燃料、道路啓開によって途中で連鎖を止められる場合もあります。

しかし、家庭の備えを考えるには有効です。最初の停電をしのぐだけでなく、停電後に断水や通信障害が遅れて深刻化する可能性を想像できるからです。

2025年ガイドライン本文8頁には、ケース2の道路を対象に、3センチ以上の灰が積もった緊急輸送道路へ1,000台のホイールローダを配置し、噴火4日目の朝までに最低限の2車線を啓開する簡易試算があります。

ただし、この計算は重機や作業員を予定どおり配置できることなどを仮定しています。事故車両の撤去、燃料補給、灰の再堆積、一般車両の通行は十分に織り込まれていません。

「4日目に道路が元どおりになる」という復旧予測ではない点に注意してください。啓開後も、想定されるのは緊急車両や復旧・物資輸送車両の最低限の通行です。

噴火を知った直後にすること

約3時間後というモデルケースを考えると、噴火後に店を回って備蓄を集める計画は現実的ではありません。

噴火を知ったら、買い出しよりも、手元にある資源を使える状態へ整えることを優先します。

  • 気象庁、内閣府、自治体の情報で噴火と降灰予報を確認する
  • 家族の居場所、帰宅・待機方針を確認する
  • スマートフォンとモバイルバッテリーを充電する
  • 飲料水、薬、携帯トイレ、照明を取り出しやすい場所へ移す
  • 窓や扉を閉め、屋外の物を片づける
  • 集合住宅では管理会社からの停電・給水情報を確認する
  • 職場や外出先では、むやみな一斉帰宅を避ける

降灰中にすること

降灰中は、自治体から避難指示などが出ている場合を除き、必要のない外出を控えます。

室内へ灰を入れると、パソコン、ルーター、空調設備などの吸気部分へ入り込みます。窓を何度も開けず、精密機器は灰の侵入が少ない場所へ移しましょう。

  • 水道と下水道の使用可否を別々に確認する
  • 音声通話より短いメッセージを優先する
  • 冷蔵庫や冷凍庫を開ける回数を減らす
  • 停電や下水道制限時は携帯トイレへ切り替える
  • 火山灰をトイレ、排水口、側溝へ流さない
  • モバイルバッテリーを娯楽より連絡と公的情報の確認へ配分する
  • 在宅医療機器を使う人は、事前に決めた医療機関の方針を優先する

やむを得ず外出する場合は、防じんマスク、隙間の少ないゴーグル、長袖、帽子などを使用します。

DS2やN95などの規格品でも、顔との間に隙間があれば本来の性能を発揮しにくくなります。装着確認を行い、子どもや呼吸器・循環器疾患のある人は、使用方法や避難判断について医療機関や公的機関の案内を優先してください。

家庭で一本化しておきたい備蓄

備蓄リストは、ライフラインの目的別に分けると緊急時に探しやすくなります。

水と衛生を維持する物

  • 飲料水、常温で食べられる食品
  • 携帯トイレ、防臭袋、手指衛生用品
  • 給水容器、ウェットティッシュ、ポリ袋
  • 常用薬、乳幼児・高齢者に必要な用品

電気と情報を維持する物

  • ヘッドライト、LEDランタン、予備電池
  • モバイルバッテリー、対応ケーブル
  • 乾電池式または手回し充電対応ラジオ
  • 紙に控えた連絡先、集合場所、避難先
  • 精密機器を覆うシートや袋

降灰から身を守る物

  • 顔に合う防じんマスク
  • 隙間の少ないゴーグル
  • フード付きの上着
  • 厚手の手袋、丈夫な靴
  • 自治体の指示に沿って使う清掃用品

燃料式発電機は、屋内、車庫、ベランダに面した窓の近く、換気の悪い場所では使用しないでください。一酸化炭素中毒や火災を防ぐため、製品の説明書と自治体の注意事項を守る必要があります。


宝永噴火と現代の首都圏から何が見える?

宝永噴火は1707年12月16日に始まり、富士山南東山腹に形成された宝永火口から大量の噴出物を放出しました。

噴火は約16日間続いたとされ、江戸にも降灰が及びました。ただし、次の噴火が同じ火口、規模、継続時間、風向になるとは限りません。

現代の弱点は、人口の多さだけではありません。電力、通信、ポンプ、電子決済、道路輸送へ暮らしの機能を集中させていることです。

江戸時代にはなかった給水ポンプ、携帯基地局、光回線、データ通信、物流管理システムが生活を便利にした一方、その多くは電気と道路に依存しています。

僕は、ライフライン被害の本質を「故障の数」ではなく、依存関係の長さに見るべきだと考えます。

電力が止まり、建物ポンプが止まるまでなら連鎖は一段です。道路が止まり、燃料補給が遅れ、基地局や下水ポンプの非常用電源が尽きるまで進めば、連鎖は三段、四段と伸びます。

復旧も一斉ではありません。電力が戻っても、集合住宅の給水設備が点検待ちになることがあります。携帯通信が戻っても、固定回線や共用設備が使えない場合があります。

そのため、「停電は何日」「断水は何日」と一つの数字を求めるより、次の三段階を想定する方が実用的です。

  • 最初の数時間を、手元の照明と通信電源でしのぐ
  • 道路や物流が不安定な期間を、備蓄で生活する
  • 電気、水道、下水道、通信が別々に復旧する期間を耐える

2026年3月25日には、内閣府と東京都が「首都圏における広域降灰対策具体化協議会」を開始しました。

東京都をモデルとして、国、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、関係自治体、ライフライン・インフラ機関などが、広域対策の具体化を協議する枠組みです。

これは、2025年ガイドラインが完成形ではなく、地域ごとの除灰、輸送、設備維持、情報共有を具体化する段階にあることを意味します。

個人的には、公的対策の進展を待つだけでは足りないと感じます。非常用電源が持ちこたえる時間と、道路が燃料を運べない時間の隙間を埋めるのは、家庭の水、携帯トイレ、照明、ラジオ、そして事前の連絡計画だからです。

霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ています。見えないから存在しないのではなく、見えない時間にこそ、暮らしの弱い接点を一つずつ補強しておく必要があります。


まとめ

富士山で宝永噴火級の大規模噴火が起きると、首都圏でも降灰により、停電、断水、下水道の使用制限、電話の輻輳、基地局や固定回線の停止が起こる可能性があります。

2020年4月の中央防災会議ワーキンググループ報告では、降雨時0.3センチ以上で停電、乾燥時10センチ以上または降雨時3センチ以上で二輪駆動車が通行不能となる想定が示されています。

一方、水道と通信には一律の数値基準がありません。水質悪化、停電、ポンプ停止、非常用燃料の枯渇、道路障害などが重なったときに停止し得ます。

内閣府の2025年ガイドラインは、首都直下地震対策でも推奨される1週間分、可能であればそれ以上の備蓄を望ましいとしています。

家庭では、飲料水、携帯トイレ、照明、モバイルバッテリー、ラジオを優先してください。集合住宅では、給水方式、非常用電源の対象設備、停電時の給水場所も確認しておきましょう。

備えるべきなのは、個別の停電だけではありません。電力停止から建物断水へ、道路障害から燃料不足へ、燃料不足から通信・上下水道の停止へ波及する連鎖です。


よくある質問

富士山が噴火すると東京も停電しますか?

噴火規模、風向き、降灰量、雨の有無によっては、東京でも停電する可能性があります。2020年4月報告は降雨時0.3センチ以上の降灰で停電が発生する想定を示していますが、実際の停止を確定する基準ではありません。

集合住宅は水道本管が無事でも断水しますか?

給水方式によっては断水します。増圧給水ポンプや受水槽の給水ポンプを使う建物では、停電によりポンプが止まり、特に上層階で水が出なくなる可能性があります。

スマートフォンを充電できれば連絡できますか?

充電できても、回線の輻輳や基地局の停止が起きれば通信できません。短いメッセージ、災害用伝言サービス、携帯ラジオ、紙の連絡先、事前に決めた集合場所を併用してください。


主な参照資料

  • 中央防災会議 防災対策実行会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―」(2020年4月7日公表、本文8~10頁)
  • 内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(2025年3月28日公表、本文5~8頁、46頁、50~52頁)
  • 内閣府・東京都「首都圏における広域降灰対策具体化協議会 第1回資料」(2026年3月25日)
  • 東京都議会「令和五年 公営企業委員会速記録第二号」(東京都水道局による降灰影響調査・長沢浄水場対策)
  • 東京都水道局「災害に強い強靱な水道」に関する資料
  • NTT東日本「東日本大震災からまもなく10年、これからも『つなぎ続ける使命』を果たします」(2021年3月9日)
  • 気象庁「富士山 有史以降の火山活動」

参照資料の内容は2026年8月21日に確認しました。噴火時には、気象庁、内閣府、自治体、電力・水道・通信事業者が発表する最新情報を優先してください。

神楽 岳志(登山エッセイスト|富士山研究家|自然体験ストーリーテラー)

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