霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ている。
晴れてその全貌を現した瞬間、僕たちは無言で見上げる。
あの山には、人の言葉を超えた“説得力”がある。
山梨県・富士吉田市。
僕がこの街で生まれたのは1982年。
父は山岳ガイド、母は和菓子職人。
幼い頃から、富士山は日常の風景でありながら、
いつも少しだけ遠い存在だった。
大学では地理学を学び、火山の地質構造を研究し、やがて富士山の内部に眠る時間の流れに惹かれていった。
そして気がつけば、登頂回数は数え切れないほどになっていた。
季節も天候も異なる富士に、僕は何度も「生き物としての山」を見た。
そんな僕が、登山を終えたあとに必ず立ち寄る場所がある。
それが──富士山駅だ。
ここは、ただの鉄道駅ではない。
富士山を「眺める」だけでなく、「感じる」ことができる、地元が誇る玄関口。
登山者が息を整える場所であり、地元の暮らしが息づく舞台でもある。
この駅のプラットフォームに立つと、
ガラス越しに映る富士の姿が、まるで「おかえり」と語りかけてくるように感じる。
それは旅人にとっての出発点であり、僕たち地元民にとっての帰着点でもある。
今日は、そんな“富士を最も近く感じる駅”──富士山駅の物語を、
富士の麓で生きてきた一人の語り部として、静かに紐解いていきたい。
第1章 駅名に込められた「意味」──富士吉田から富士山へ

この話をするとき、いつも少し胸が高鳴る。
富士山駅には、“名前”そのものに物語が詰まっているからだ。
今からおよそ90年前の昭和4年(1929年)、この街に「富士吉田駅」が誕生した。
当時はまだ観光地としての富士山が今ほど整備されていなかった時代。
それでもこの線路が開通した瞬間、地元の人たちは歓声を上げたという。
「これで富士山とつながったんだ!」──そう言って笑う当時の写真を見たことがある。
鉄路が通ること、それは“希望が動き始めた”証だったのだ。
それから80年の月日を経て、2011年7月1日。
駅の名前が「富士山駅」に変わった。
富士登山の山開きの日に合わせての改称。これはもう偶然なんかじゃない。
地元と鉄道会社(富士急行)が手を取り合って、「この駅を富士山観光の玄関口にしよう」と決めた、
まさに“街の挑戦”だった。
駅舎も大きく生まれ変わり、駅前には朱色の大鳥居が建った。
その姿を初めて見たとき、僕は思わず声が出た。
──やったな、富士吉田。
まるで街全体が「新しい富士登山の時代」を迎えたようだった。
この改称を知った日の夜、僕は父(元・山岳ガイド)に電話をした。
「なあ、ついに“富士山駅”だってよ」
電話口の向こうで父が静かに笑って言った。
「やっと名前が追いついたな」
その一言に、僕は胸が熱くなった。
「富士吉田駅」から「富士山駅」へ──
それは単なる看板の掛け替えじゃない。
この街がもう一度、富士山と正面から向き合い、“自分たちの誇り”を取り戻した瞬間だったんだ。
それ以来、駅を訪れる旅人が確実に増えた。
外国人観光客がスマホで富士を撮り、地元の高校生がその横を駆け抜ける。
その光景を見るたびに思う。
──この名前には、たしかに力がある。
僕にとって「富士山駅」という名は、
ただの地名でも、観光の象徴でもない。
それはこの街と富士山が共に生きてきた証であり、
そして、僕の心のどこかにずっと灯り続けている“原点”のような存在なのだ。
第2章 立地と眺望──富士山を「最も近く感じる駅」

富士山駅に初めて降り立った人は、ほぼ全員が同じリアクションをする。
改札を抜けた瞬間、思わず声が出るのだ。
「うわ、近っ!」
それもそのはず。ホームの正面に立ちはだかるのは、どこまでも大きな富士山の全景。
まるで山そのものが駅の屋根を支えているかのような迫力だ。
僕も最初にここへ取材で来たとき、思わずカメラを構える前に数秒間、ただ見とれていた。
山の稜線、裾野のカーブ、雲の流れ――すべてが近い。これほど“実物大の富士”を感じる駅は他にない。

2011年のリニューアルでは、駅舎の設計思想そのものが「富士を迎える」ことに特化している。
1階の改札口から2階のコンコース、そして展望デッキまで、すべての動線が富士山を真正面に捉えるように作られている。
これは偶然ではなく、地元建築士たちが“富士を額縁に収める”という発想で設計したものだ。
取材でその話を聞いたとき、僕は胸が躍った。
「なるほど、駅そのものが展望台なんだ!」
そんな発想、普通じゃ出てこない。
この街の人たちは、日常の中に“富士を見る喜び”を組み込んでしまったのだ。
ホームに立つと、冷たい風が頬をかすめる。
電車の音よりも先に聞こえるのは、山から吹き下ろす風の音。
その空気を吸い込むと、不思議と心が落ち着く。
「ここで電車を待つ」――その時間すら、この駅では特別な体験になる。
──ここは“通過点”じゃない。
“富士と出会うステージ”なのだ。
午前中は青空に映える白い富士、
夕暮れには茜色に染まるシルエット。
同じ山なのに、見るたびに違う表情を見せてくれる。
僕が幾度となく登った富士山だけど、この駅から見る富士は、何度見ても飽きない。
むしろ登頂した後でも、またここに戻って見たくなるほどだ。
旅人たちが口を揃えて言う。
「富士山を最も近く感じる駅は、間違いなくここだ」と。
その言葉を聞くたび、僕はうれしくなる。
自分の故郷の駅が、こんなにも人の心を動かしているのだ。
駅という日常の場所に、これほどの“感動”を宿す風景は世界でも珍しい。
でも、富士山駅にはそれがある。
ただの交通拠点じゃない、「心が富士にチューニングされる場所」。
それが、この駅のすごさだと思う。
💡富士山駅の豆知識
- 所在地:山梨県富士吉田市上吉田二丁目5-1
- 標高:約809m(駅ホームから富士山五合目まで高低差約2,000m)
- 開業:1929年(昭和4年)・旧名「富士吉田駅」
- 展望デッキ開設:2011年(平成23年)リニューアル時
- 運営:富士急行株式会社(現・富士山麓電気鉄道)
第3章 地元とのつながり──街と旅路を結ぶ

富士山駅の一番の魅力は、“地元と旅人の境界線がないこと”だ。
改札を抜けるとすぐ、通勤リュックの地元民と、カメラを首から下げた観光客が同じリズムで歩いている。
これがいいんだ。ここにしかない空気がある。
僕が育った富士吉田では、富士山は「特別な存在」ではなく「生活の背景」だった。
父は山岳ガイド、母は地元の湧水で和菓子を作っていた。
夕飯の支度をしながら「今日は富士が赤いね」と言う──それが当たり前の毎日だった。
そんな日常のど真ん中にあるのが富士山駅だ。
ここには、登山前に気合を入れる人もいれば、地元の高校生がソフトクリームを食べて笑っている姿もある。
同じホームで、旅と日常がちゃんと混ざってるんだ。
それを見てるだけで、僕はなんだか嬉しくなってしまう。

駅ビルの中には、コシの強さが自慢の吉田のうどん屋や、
地元の職人が作る木工細工の店が並ぶ。
観光施設というより、地元の暮らしがそのままオープンになっている場所といった方が近い。
取材中に立ち寄ったうどん店のご主人が笑いながら言っていた。
「登山客が来るのも、地元の子が部活帰りに食べるのも、同じ味なんですよ」
──この一言が、この街の温度を全部表している気がする。
週末の朝になると、登山靴の音と学生の笑い声が同じホームに響く。
お土産袋を抱えた観光客の横を、地元のおばあちゃんが買い物帰りに通り過ぎる。
その交差する瞬間が好きで、僕は何度もこの駅を訪れている。
この駅は“境界線”じゃなく“交差点”なんだ。
──富士山駅にいると、「地元」と「旅」が握手しているような気持ちになる。
駅前通りを少し歩けば、昔ながらの呉服店の隣に、新しいカフェができている。
オーナーの若いご夫婦に話を聞いたら、
「東京で働いてたけど、富士山の見える場所で暮らしたくて戻ってきたんです」と笑っていた。
こうして“帰ってくる人”が増えているのも、この駅のおかげだと思う。
旅人を迎えるだけじゃない。地元の人を未来へ送り出す駅でもあるのだ。
🍜 富士山駅グルメメモ
- 麺許皆伝(めんきょかいでん):地元で評判の吉田のうどん専門店。コシと出汁の香りが絶妙。
- 富士山駅ビル Q-STA:観光客にも人気の駅直結モール。地元産の雑貨や軽食が充実。
- 駅前カフェ:富士山の姿を見ながらコーヒーを味わえるテラス席が好評。
観光客も、地元の人も、同じ空気を吸いながら行き交う。
この混ざり合う感じが、僕はたまらなく好きだ。
富士山駅に立つと、いつも思う。
「この街は、ちゃんと富士山と一緒に生きてる」って。
第4章 待ち合わせという魔法──旅の時間を刻む場所に

「富士山駅で待ち合わせよう。」
その一言には、なぜだか特別な響きがある。
ただの集合場所のはずなのに、そこに“旅の予感”が漂うのだ。
駅のホームには、電車の汽笛、足音、そして風の音が混ざり合う。
改札口を抜けた先に、巨大な富士が姿を見せる。
その光景は、まるで「この瞬間を大切に」と語りかけてくるようだ。
──待つという行為が、こんなにも美しい時間になる場所を、僕はほかに知らない。
ある冬の朝、登山を共にした友をこの駅で見送ったことがある。
白い息を吐きながら、手を振るその背中の向こうに、雪化粧した富士が静かにそびえていた。
言葉は少なかったが、あのときの景色が、いまも胸の奥に残っている。
またある夏の日。
旅人の女性がホームで手帳を開き、富士山をスケッチしていた。
夕陽がガラス越しに射し込み、彼女の髪とページを金色に染めていた。
その姿を見た瞬間、僕はふと気づいたのだ。
──この駅は、誰かの“物語の始まり”になる場所なのだ。

待つ人、迎える人、見送る人。
その誰もが、この駅という小さな舞台で、それぞれのドラマを演じている。
たとえほんの数分の待ち時間でも、そこに宿る温度は決して軽くない。
旅に出るとき、僕は必ずここで深呼吸をする。
富士の姿を仰ぎ、心の中で「行ってきます」と呟く。
そして帰ってきたときは、「ただいま」と小さく笑う。
富士山駅は、そんな“心の定点”として、僕の時間を刻み続けている。
──待ち合わせとは、ただ人を待つことではない。
自分の心と向き合うための、静かな儀式なのだ。
だから僕は、誰かに会う約束をするとき、こう言いたくなる。
「富士山駅で待ち合わせよう。」と。
第5章 旅人へのメッセージ──待ち合わせの先にあるもの

富士山麓を旅するなら、僕は迷わずこう言う。
「富士山駅で待ち合わせよう」と。
ただの集合場所? いや、全然違う。
富士山駅のホームに立った瞬間、旅のスイッチが“カチッ”と入る。
空気が変わる。背筋が伸びる。
あの瞬間を知らないまま帰るなんてもったいない。
早朝、まだ街が静まり返っている時間。
駅構内には焼きたてのパンの香り、外では冷たい風。
振り向くと、そこに富士山。
まるで「今日、いい旅になるぞ」と背中を押してくれているみたいだ。
午後になると、展望デッキに笑い声が響く。
子どもが「わー!」と指を差し、外国人観光客が夢中でシャッターを切る。
その輪の中に混じっていると、なんだかこっちまでうれしくなる。
僕も思わず、「ほら、あそこが山頂だよ」って話しかけたくなる。
夕方。
富士山の稜線が紫色に染まり始める頃、ホームにいる人たちの声が少しずつ静かになる。
誰もが同じ方向を見て、言葉を失う。
富士山駅って、そういう場所なんだ。
見上げるだけで、人の心をひとつにしてしまう場所。
僕はこれまで世界中の山を見てきたけれど、
「駅からここまでドラマチックに山が見える場所」は、他にない。
富士山は登るだけじゃなく、“ここで出会う”山なんだと思う。
──だからこそ言いたい。
富士山駅での待ち合わせは、ただの集合じゃない。
それは“旅が始まる前のワクワク”を全員で共有する儀式なんだ。
待ち合わせをして、笑って、出発して、
そして帰ってくる場所があるって、すごく幸せなことだと思う。
富士山駅は、旅人にとってのスタートラインであり、
僕たち地元民にとっての“ただいま”の場所でもある。
だからあなたの次の旅は、ここから始めてほしい。
電車のドアが開いて、最初に見る景色が富士山──それだけで最高の一日が始まる。
富士山駅で待ち合わせよう。
その一言が、きっとあなたの新しい物語の合図になる。

まとめ──富士山駅という“心の出発点”

いやぁ、やっぱり富士山駅はすごい。
何度来ても「ここから始まる」っていうワクワクがある。
ただの交通の要所じゃなくて、まるで旅のエンジンをかけるスイッチみたいな場所だ。
ホームに立てば、真正面に富士山。
改札を抜ければ、地元のにおい。
コーヒーの香りと登山靴の音が混ざって、誰もが“富士モード”に切り替わる。
ここには、富士山を最も近く感じる距離と、
地元と旅人が自然に交わるあたたかさがある。
この駅が好きなのは、完璧だからじゃない。
ちょっと不便なところもあるし、天気が悪いと富士は隠れてしまう。
でもね、それでも人が集まるんだ。
だって、この駅には“富士山のリアル”があるから。
雲の向こうにある富士を信じて、みんなそれぞれの時間を過ごしている。
駅名に込められた誇り。
ガラス越しに見える富士の迫力。
登山客、地元の学生、観光客――いろんな人の足音が重なって、
この駅はまるで“生きている”ように感じる。
僕はこの記事を書きながら、またすぐにでも行きたくなってきた。
富士山駅のベンチに座って、あの空気を吸い込みたい。
そして、また誰かに言いたい。
「次の旅、富士山駅で待ち合わせしようよ。」
もしあなたが、富士山を“観光”ではなく“体験”として感じたいなら、
まずはここに立ってみてほしい。
駅から見える富士の姿、その空気、その人の流れ。
それがきっと、あなたの心の中に新しい富士山を刻んでくれる。
富士山駅──それは、旅のスタートであり、心のスイッチだ。
ここから始める旅は、きっと特別な一日になる。
よくある質問(FAQ)──富士山駅を100倍楽しむためのQ&A
Q1. 富士山駅から本当に富士登山できるんですか?
A. もちろんできます!富士山駅から富士スバルライン五合目までは富士急バスで約60分。
夏の登山シーズンは直通バスが出ていて、乗るだけで標高2300mまでひとっ飛び。
駅で登山グッズを揃えて、そのまま五合目へGO!
▶ 富士急バス公式サイトはこちら
Q2. 富士山駅から見える富士山って、どっち向き?
A. ホームの正面、つまり南西方向です!
朝は逆光になりにくく、山頂までくっきり見える“絶景タイム”。
駅の展望デッキから見る富士は、思わず「近っ!」って声が出ます。
Q3. 駅の周りって、見るところある?
A. めちゃくちゃあります。
駅直結の「Q-STA」にはカフェやお土産店、そして名物・吉田のうどんも。
徒歩10分で行ける「新倉山浅間公園」は、外国人にも大人気の絶景スポット。
あと、富士山世界遺産センター(山梨)も徒歩圏内。
半日いても飽きません!
Q4. 写真を撮るベストタイミングっていつ?
A. 朝7〜9時!ここが一番おすすめ。
富士山の頂に朝陽が当たって、青と白のコントラストが最高。
ちなみに夕方も“シルエット富士”が狙える時間。
スマホでもびっくりするほど綺麗に撮れます。
Q5. 駅名が「富士山駅」になったのはなぜ?
A. 実は、もともとは「富士吉田駅」でした。
でも2011年7月1日、富士登山の山開きに合わせて「富士山駅」に改名!
「富士山観光の玄関口として胸を張ろう」という地元と富士急行の熱い想いから生まれた名前です。
▶ 富士急行公式プレスリリースはこちら
Q6. 富士急ハイランドまで近いって聞いたけど、本当?
A. 本当です!電車でたった1駅(約2分)。
徒歩でも15分程度なので、晴れた日は富士山を見ながら歩くのが断然おすすめ。
富士山駅で降りて、遊園地とセットで楽しむ人も多いですよ。
🗻 どの質問にも共通して言えるのは、「富士山駅は想像以上にワクワクする場所」ってこと。
アクセスも景色も人の温かさも、全部が“富士らしさ”に溢れています。行く前から旅はもう始まってる!
参考・情報ソース
- 富士急行株式会社 プレスリリース(2010年):「富士吉田駅を『富士山駅』に駅名変更します」
- AllAbout 鉄道:「富士急行富士吉田駅、富士山駅に改名リニューアル」
- Wikipedia:「富士山駅」概要・沿革
- 富士山・富士五湖観光ナビ:富士山駅エリア情報
※掲載情報は2025年10月時点の内容です。季節や気象条件により変動があります。最新情報は各公式サイトをご確認ください。


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