富士山は2025年7月5日に噴火しておらず、同日を噴火日とする科学的根拠や公的発表もありませんでした。
噂の原点には、漫画家・たつき諒氏の『私が見た未来 完全版』があります。ただし、同書で描かれたのは「2025年7月の大災難」に関する夢であり、富士山噴火の予告ではありません。
富士山は2025年7月5日に噴火した?5項目で結論
2025年7月5日にも、同年7月中にも、富士山の噴火は発生していません。
今回の噂について、最初に確認すべきポイントを5項目に整理します。
- 結論:2025年7月5日に富士山は噴火していない
- 噂の原点:たつき諒氏の『私が見た未来 完全版』
- 7月5日の由来:著者が夢を見た「2021年7月5日」という日付
- 富士山説の由来:原著ではなく、なりすまし情報などとの混同が疑われる
- 現在の公式評価:2026年8月12日時点で噴火警戒レベル1
気象庁、内閣府、山梨県、静岡県、富士山周辺自治体などが、2025年7月5日を「噴火予定日」や「特別に危険な日」として発表した事実も確認できません。
したがって、「2025年7月の大災難」と「2025年7月5日に富士山が噴火する」という情報は、明確に分けなければなりません。
「結局、何も起きなかったのだから予言は外れた」で終えることもできます。しかし、それだけでは、なぜ夢の話に富士山と具体的な時刻まで加わったのかが見えてきません。
僕が重要だと考えるのは、山の異変ではなく、情報が拡散の途中で変形した事実です。
確かめられる情報を時系列で追うと、次のような流れが浮かびます。
1. 1999年、旧版『私が見た未来』が出版される
2. 2011年の東日本大震災後、「予言漫画」として再注目される
3. 著者を名乗るなりすましが、富士山噴火などの情報を発信する
4. 2021年、『私が見た未来 完全版』が刊行される
5. 「2025年7月の大災難」と「2021年7月5日に見た夢」が混同される
6. 動画やSNS、映画企画などで「2025年7月5日午前4時18分」が強調される
7. 地震、津波、南海トラフ地震、富士山噴火が同じ予言のように語られる
この経路を踏まえると、「原著に富士山の噴火日が書かれていた」という理解が正しくないことが分かります。
2025年7月5日噴火説の原点は『私が見た未来 完全版』?
噂の原点として広く知られたのは、漫画家・たつき諒氏の『私が見た未来 完全版』です。同書は飛鳥新社から2021年10月に刊行されました。
その前身となる『私が見た未来』は、1999年に朝日ソノラマから出版されています。
旧版の表紙には「大災害は2011年3月」という言葉があり、2011年3月11日の東日本大震災後、「震災を予言した漫画」として大きな注目を集めました。
ただし、その後の情報拡散には、著者本人ではない人物も関わっています。
たつき氏は2022年に公開された『文藝春秋』のインタビューで、自身を名乗るなりすましがネット上に現れた経緯を説明しました。
なりすましは阪神・淡路大震災や著名人の死だけでなく、「富士山が8月に大噴火する」といった内容まで、たつき氏の予言であるかのように発信していたとされています。
これは、富士山噴火説の経路を考えるうえで見逃せない事実です。
たつき諒氏の名前と富士山噴火を結び付けた情報の少なくとも一部は、本人の発言ではありませんでした。
ただし、誰が最初に「2025年7月5日」と「富士山噴火」を一つの情報として結び付けたのかは、確認できる一次情報だけでは特定できません。
そのため、「噂を最初に流した人物はこの人だ」と断定することも、「すべて原著に書かれている」と説明することも不正確です。
2021年7月5日午前4時18分は何の日時だった?
飛鳥新社は2025年4月19日、『私が見た未来 完全版』をめぐって広がった誤解について公式見解を公表しました。
出版社の説明によると、同書で確認できるのは、著者が「これから起こる大災難の夢を見た」ことと、その災難が「2025年7月」に起こるという趣旨の記述です。
一方、夢日記に記録されていた「2021年7月5日午前4時18分」は、著者が夢を見た日時でした。
飛鳥新社は、たつき氏が「2025年7月5日午前4時18分に大災害が起きる」と述べたものではないと説明しています。
原著・出版社説明と、拡散後の情報を比較すると、違いは次のとおりです。
確認項目 原著・出版社説明で確認できる内容 拡散後に加わった、または変形した内容
災難の時期 2025年7月 2025年7月5日
午前4時18分 2021年7月5日に夢を見た時刻 2025年に災害が起きる時刻
夢の主な現象 太平洋の海水が盛り上がり、大津波が押し寄せる場面 大地震、南海トラフ地震、富士山噴火など
富士山噴火 2025年7月の噴火予告としては確認できない 噂の中で災害候補に追加された
科学的根拠 火山・地震観測に基づく予測ではない 公的な予測のように受け取られる場合があった
「7月5日」という数字自体が、書籍と無関係だったわけではありません。
問題は、夢を見た日が、夢の出来事が発生する日へ置き換えられたことです。さらに、夢を見た年である2021年が外れ、「2025年7月」という別の記述と接続されました。
こうして「2021年7月5日午前4時18分に見た夢」が、「2025年7月5日午前4時18分に起きる災害」へ変わったと考えられます。
数字は細かいほど正確に見えます。しかし、数字の細かさと、科学的な精度の高さは同じではありません。
映画企画は日付の拡散にどう関係した?
2025年には、『2025年7月5日午前4時18分』という具体的な日時を題名に掲げた映画企画も話題になりました。
飛鳥新社は2025年4月19日の声明で、この題名がたつき氏自身の主張であるかのような誤解を招く可能性を指摘しています。
同社は、出版社と著者のいずれも映画の制作には関与していないと説明しました。
確認できる資料の範囲では、映画企画の全経緯や、SNS上の各投稿がどこまで映画の題名から影響を受けたかまでは断定できません。
それでも、具体的な日時が作品名として掲げられたことで、「その時間に何かが起きる」という受け止め方を補強した可能性はあります。
ここでも、注目すべきは富士山の観測値ではありません。日付を強く印象付ける表現が、噂にもっともらしさを与えた点です。

なぜ津波の夢が富士山噴火説へ変わった?
『私が見た未来 完全版』で2025年7月の夢として描かれた主な現象は、大津波を思わせる場面であり、富士山噴火ではありません。
それにもかかわらず、拡散後の情報では、大地震、南海トラフ地震、津波、富士山噴火などが一つの予言のように並べられました。
僕は、この変化を三つの段階に分けて見る必要があると考えます。
1.夢を見た日時が災害発生日へ変換された
最初の変形は、「2021年7月5日午前4時18分」という夢を見た日時が、「2025年7月5日午前4時18分」という災害発生日時へ置き換えられたことです。
元の情報には数字があるため、完全な創作よりも信じやすくなります。
しかし、年と意味が変われば、それは同じ情報ではありません。
2.なりすましの富士山説が2025年説と混同された
次の変形は、たつき氏を名乗るなりすましが発信したとされる富士山噴火説との混同です。
「予言漫画の作者」「具体的な日付」「富士山噴火」という印象の強い断片が、出所を確認されないまま接続された可能性があります。
ただし、なりすましによる「8月の富士山噴火」と、2025年7月5日説を直接つないだ最初の投稿者は確認できません。
したがって、ここは「混同された可能性が高い」と評価するにとどめるのが誠実です。
3.防災施策が噴火予告の証拠として誤読された
国や自治体は、富士山噴火に備えたハザードマップ、避難計画、広域降灰対策を整備しています。
しかし、こうした施策は「政府が噴火日を知っているから進めている」のではありません。発生日時を正確に予測できない災害だからこそ、平時に被害想定と対応手順を準備しています。
内閣府は2025年3月、富士山噴火をモデルケースとする「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表しました。
さらに2025年8月25日には、翌26日の「火山防災の日」に合わせ、富士山の大規模噴火によって新宿などに火山灰が降る状況を示す啓発用CGを公開しています。
これらは防災資料であり、2025年7月5日の噴火を予告した資料ではありません。
夢の日時、なりすましの富士山説、行政の防災施策。この三つが誤って接続されることで、観測根拠のない噴火日が公的な予測のように見えてしまった。
これが、僕が一連の情報を照合して見いだした拡散構造です。
7月5日説は香港の訪日旅行にどう影響した?
2025年7月の大災害説は、日本国内だけでなく、香港など海外でも広く知られるようになりました。
2025年5月15日付の毎日新聞は、「2025年7月に日本で大災害が起きる」という情報が国内外で拡散し、旅行にも影響が出ている状況を報じています。
香港からの旅行需要への影響は複数の報道で取り上げられましたが、書籍、動画、SNS、風水師の言及など、どの経路がどれほど予約減少へ影響したかを示す統一的な数値は確認できません。
そのため、「特定の発信者が香港の旅行需要を減少させた」と断定することは避けるべきです。
7月5日を過ぎた後には、香港経済新聞が香港航空による仙台、熊本、鹿児島、名古屋便、グレーターベイ航空による徳島、米子、仙台便の減便や運休を伝えました。
ただし、航空便の変更は、予約状況だけでなく、機材繰り、乗務員配置、運航計画、採算性など複数の条件によって決まります。
各路線の変更すべてが「予言」によるものだったと示す当事者の一貫した説明や、影響を切り分けられる搭乗率のデータは、この記事で確認した資料からは把握できません。
したがって、正確には次のように理解する必要があります。
- 香港で訪日旅行への不安が報道された
- 日本路線の一部で減便や運休が報じられた
- 噂が旅行心理に影響した可能性はある
- ただし、各便の変更との直接的な因果関係は断定できない
- 7月5日通過後の需要回復についても、具体的な旅客数なしに一般化できない
僕が感じたのは、噂が国境を越えると、単に言語だけが翻訳されるのではないということです。
日本国内の「その日に何か起きるかもしれない」という曖昧な不安が、海外では「その時期に日本へ行ってよいのか」という旅行判断へ置き換わります。
ただし、この分析も旅行者全体の心理を示す統計ではありません。報道された事例から考えられる一つの見方として、事実とは分けておく必要があります。
気象庁長官は特定日時の予知をどう説明した?
不安が広がるなか、気象庁の野村竜一長官は2025年6月13日の記者会見で、現在の科学的知見では、地震の発生日時、場所、規模を特定した予知はできないと説明しました。
この発言は富士山噴火だけを対象にしたものではありません。
それでも、「2025年7月5日に大地震が起きる」といった情報を、科学的な予測として扱えないことを改めて示した説明です。
火山噴火についても、数年前から特定の日付と時刻をカレンダーのように指定できる技術は確立していません。
火山の評価では、先に日付を決めるのではなく、火山性地震、火山性微動、地殻変動、火山ガス、噴気、熱活動などを観測します。
予言は先に日付を置き、科学は先に現象を観測する。
この順序の違いは、予言と火山情報を見分けるための重要な基準です。
2026年現在、富士山に噴火の兆候はある?
2026年8月12日時点で、富士山は噴火警戒レベル1「活火山であることに留意」です。差し迫った噴火を示す観測変化は公表されていません。
気象庁が2026年8月10日に公表した「富士山の火山活動解説資料(令和8年7月)」では、警戒事項は「特になし」とされています。
2026年7月の主な観測結果は次のとおりです。
- 山頂で噴気は認められなかった
- 火山性地震は少なく、低調に経過した
- 火山性微動は観測されなかった
- 浅部の低周波地震は観測されなかった
- GNSSなどによる地殻変動観測に特段の変化はなかった
対象市町村として、山梨県の富士吉田市、鳴沢村、静岡県の御殿場市、富士市、富士宮市、裾野市、小山町が示されています。
ただし、噴火警戒レベル1は「死火山」や「永久に安全」を意味しません。
富士山が活火山であることを踏まえたうえで、現在の観測では静穏に経過しているという評価です。
将来の噴火可能性と特定日予言は別問題
山梨県富士山科学研究所長で東京大学名誉教授の藤井敏嗣氏は、富士山では過去約5600年間に約180回の噴火が確認されていると説明しています。
単純に割れば平均は約30年に1回ですが、この数字は噴火周期ではありません。
噴火が集中した時期もあれば、長く静穏だった時期もあります。平均値から次の噴火年月日を計算することはできません。
富士山で最後に確認された噴火は、1707年12月16日に始まり、1708年1月1日未明まで約16日間続いた宝永噴火です。
長い休止期間は、明日の噴火を証明する材料にも、今後の安全を保証する材料にもなりません。
また、観測に変化が現れても、必ず噴火するとは限りません。
富士山では1987年8月20日から27日に火山性地震が増え、山頂で4回の有感地震、最大震度3を記録しましたが、噴火には至りませんでした。
2000年から2001年にかけて深部低周波地震が多発した際も、2011年3月15日に静岡県東部で最大震度6強の地震が発生した際も、富士山は噴火していません。
反対に、他の火山では、異常が明瞭になってから短時間で噴火した事例があります。
だからこそ、遠い将来の特定日を信じるのではなく、最新の観測結果と行政情報を確認する必要があります。

2025年7月5日噴火説から何を学ぶべきか?僕の考察
僕の考えでは、今回の噂が示した最大の問題は、個別には正しい事実でも、誤って接続すれば全体として誤情報になることです。
「著者が2021年7月5日午前4時18分に夢を見た」「2025年7月の大災難が描かれた」「なりすましが富士山噴火に言及した」「富士山は活火山である」「政府が降灰対策を進めた」。
これらには、それぞれ確認できる事実が含まれています。
しかし、すべてを並べても、「2025年7月5日午前4時18分に富士山が噴火する」という結論にはなりません。
情報を検証するときは、一つ一つの文章が正しいかを見るだけでは足りません。その情報同士を結ぶ因果関係が、本当に資料によって裏付けられているかを確かめる必要があります。
「予言の否定」と「噴火リスクの否定」を混同しない
2025年7月5日説に根拠がなかったことは、富士山が将来も噴火しないことを意味しません。
富士山は過去に繰り返し噴火してきた活火山であり、将来の噴火に備える必要があります。
しかし、将来噴火する可能性があることは、特定日の予言を信じる根拠にもなりません。
実際の判断で確認すべきなのは、次のような変化です。
- 噴火警戒レベルが変更されたか
- 臨時の火山情報が発表されたか
- 火山性地震や火山性微動が増加したか
- 山体膨張や火山ガスの変化が確認されたか
- 登山道や道路に規制が出たか
- 自治体から避難に関する情報が発表されたか
噂の日付が近づくこと自体は、地下のマグマが上昇している証拠ではありません。
霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ています。見えないところを想像で埋めたくなりますが、安全判断に必要なのは、鮮明な物語ではなく観測の積み重ねです。
不安は最低限の備えへ変える
根拠のない噂に振り回される必要はありませんが、噂をきっかけに火山防災を確認することには意味があります。
内閣府の広域降灰対策ガイドラインは、降灰地域では安全が確保できる限り、自宅などで生活を継続することを基本としています。
一方、火口周辺の大きな噴石、火砕流、溶岩流、降雨時の土石流、火山灰の重みによる建物被害などが想定される場合は、自治体の指示に従う必要があります。
家庭では、水、食品、常用薬、簡易トイレ、照明、モバイルバッテリー、マスク、ゴーグル、自治体のハザードマップを点検しておくと実用的です。
旅行者や登山者は、過去に拡散した日付ではなく、出発当日の噴火警報、登山道規制、交通情報、自治体発表を確認してください。
不安を何度も検索するだけでは、安全は増えません。自宅の想定被害と家族の連絡方法を一度確認するほうが、現実の防災につながります。
まとめ
富士山は2025年7月5日にも、同年7月中にも噴火していません。同日を噴火日とする科学的根拠や、公的機関による予告もありませんでした。
『私が見た未来 完全版』には「2025年7月の大災難」という趣旨の記述がありますが、「2021年7月5日午前4時18分」は著者が夢を見た日時です。
飛鳥新社も2025年4月19日、たつき諒氏が2025年7月5日午前4時18分を災害発生日時として述べたものではないと説明しました。
2025年7月の夢として描かれた主な現象は大津波を思わせる場面であり、「富士山が2025年7月5日に噴火する」という予告は確認できません。
噂は、夢を見た日時が発生日へ変換され、なりすましによる富士山噴火説や行政の防災施策と混同されるなかで形づくられた可能性があります。ただし、最初に7月5日と富士山を結び付けた人物は特定できません。
2026年8月12日時点の富士山は噴火警戒レベル1です。2026年7月の観測でも、差し迫った噴火を示す変化は公表されていません。
噂はカレンダーの日付を見せます。防災は山の変化を見ます。その違いを理解することが、富士山と冷静に向き合う第一歩です。
よくある質問
2025年7月5日に富士山が噴火する説は誰が最初に言った?
確認できる一次情報だけでは、2025年7月5日と富士山噴火を最初に結び付けた人物を特定できません。原著の記述、夢を見た日時、なりすましによる別の富士山噴火説などが、拡散の過程で混同されたと考えられます。
『私が見た未来 完全版』に富士山噴火の予言はある?
富士山が2025年7月5日に噴火するという予告は確認できません。2025年7月の夢として描かれた主な現象は大津波を思わせる場面で、「2021年7月5日午前4時18分」は夢を見た日時です。
2026年現在、富士山に噴火の兆候はある?
2026年8月10日公表の気象庁資料では、富士山は噴火警戒レベル1です。2026年7月は火山性地震が少なく、火山性微動、浅部低周波地震、特段の地殻変動も確認されていません。今後の判断では、気象庁や自治体の最新発表を確認してください。
主な参照資料
- 飛鳥新社「『私が見た未来 完全版』に関するお知らせ」(2025年4月19日)
- 『文藝春秋』たつき諒氏インタビュー(2022年公開)
- 気象庁長官記者会見記録(2025年6月13日)
- 気象庁「富士山の火山活動解説資料(令和8年7月)」(2026年8月10日)
- 内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(2025年3月)
- 内閣府・火山防災の日に向けた富士山降灰啓発用CG(2025年8月25日公表)
- 毎日新聞「2025年7月の大災害説」と旅行への影響に関する報道(2025年5月15日)
- 香港経済新聞・香港発日本路線の減便および運休に関する報道
- 山梨県富士山科学研究所・富士山の噴火履歴および火山防災に関する解説資料
神楽 岳志(かぐら・たけし)
登山エッセイスト|富士山研究家|自然体験ストーリーテラー


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