富士山の笠雲は雨の前兆になり得ますが、雨を保証する現象ではありません。
2025年に公表された研究は、7台のライブカメラによる3年間の観測から、笠雲・吊るし雲・旗雲の発生頻度や形、風向、湿潤層との関係を分析しました。研究の中心は「雨が降る確率」ではなく、富士山周辺の特徴的な雲が、いつ、どのような気象条件で現れやすいかを整理した点にあります。
2025年の富士山笠雲研究で何が分かったのか?
2025年の研究では、笠雲が現れやすい季節と時間帯、上空の風、湿潤層の高さ、主要な形、発生頻度が具体的に示されました。
研究を行ったのは、筑波大学計算科学研究センターの日下博幸教授を代表とする研究グループです。筑波大学のほか、情報通信研究機構、信州大学の研究者が参加しました。
論文名は「Characteristics of unique cap, Tsurushi and Hata clouds around Mount Fuji」です。
英国王立気象学会の専門誌『Weather』で2025年10月30日にオンライン公開され、筑波大学は同年11月25日に研究成果を発表しました。その後、論文は『Weather』の2026年6月号にも収録されています。[1][2]
研究で示された五つの重要ポイント
検索者が最も知りたい研究結果を先にまとめると、次の五つです。
- 笠雲は暖かい季節の朝に現れやすい傾向があった
- 笠雲の発生時には、西南西寄りの比較的強い風が確認された
- 接地笠と離れ笠の違いは、湿潤層の高さと強く関連していた
- 笠雲では接地笠、吊るし雲では楕円型、旗雲では馬のたてがみ型が主要だった
- 吊るし雲の形成には、山を越えた気流による山岳波が主に関係すると推察された
ここで注意したいのは、研究が「この条件なら必ず笠雲ができる」と証明したわけではないことです。
カメラによる観測結果と気象データの対応を調べ、雲が現れたときに共通しやすい条件を分析した研究です。したがって、「決定した」「完全に解明した」と言い切るより、発生しやすい条件と大気構造の関係を明らかにしたと表現する方が正確です。
対象・期間・方法・主要結果・限界
研究の全体像は、次のように整理できます。
- 対象:富士山周辺に現れる笠雲、吊るし雲、旗雲
- 観測期間:2019年1月から2021年12月までの3年間
- 観測方法:富士山を複数方向から捉える7台のライブカメラ映像を目視分類
- 気象解析:風向、風速、湿度の高度分布、大気の安定度などを客観解析データと照合
- 主要結果:雲ごとに主要な形、季節、時間帯、風向、湿潤層、鉛直シアーの傾向を確認
- 研究上の限界:雲や霧による遮蔽、夜間の視認性、形の分類における誤判定の可能性
僕が今回の研究で特に重要だと感じたのは、昔から一括して「富士山の変わった雲」と眺められてきた現象を、形と発生位置、大気の構造によって分けたことです。
名前を付けて分けることは、単なる分類ではありません。異なる現象を混同せず、それぞれが何を知らせているのかを考えるための出発点になります。
7台のライブカメラで笠雲をどう調査したのか?
研究グループは、既存4台と新設3台を合わせた7台のライブカメラを使い、富士山周辺の雲を複数方向から確認しました。
観測期間は2019年1月から2021年12月です。
一方向だけから雲を見ると、山頂に接しているように見えた雲が、別の方向からは離れている場合があります。反対に、二つの雲が重なり、一つの笠雲に見えることもあります。
そこで研究では、複数のカメラ映像を照合し、雲の形と位置を慎重に分類しました。[1][2]
一般向けの研究発表では7台という構成が示されていますが、各カメラの設置地点や方角を厳密に確認する場合は、大学の発表文だけでなく原論文の観測網に関する記述と図を参照する必要があります。
明瞭な笠雲を判定した基準
主要な統計分析では、山頂付近に雲が少し触れただけの事例を、すべて笠雲として数えたわけではありません。
明瞭な笠雲は、おおむね次のような基準で判定されました。[1]
- 富士山頂を覆うか、山頂より上に形成されている
- 雲の幅が山頂部より広い
- 周囲の雲から独立して見える
- 5分を超えて形を保っている
- 少なくとも二つの方向から笠雲と確認できる
条件を十分に満たさない雲や、別の雲に隠れて形を確認できない事例は、明瞭な笠雲とは分けて扱われました。
これは研究の信頼性を考えるうえで大切な点です。
富士山の雲は刻々と姿を変えます。滑らかな笠が数分で崩れることもあれば、山頂付近の一般的な雲が笠のように見えることもあります。判定基準を設けなければ、観察者によって発生回数が大きく変わってしまうからです。
3年間に確認された発生時間と日数
原論文では、明瞭な笠雲が確認された時間は3年間で合計568時間と報告されています。
判別が難しい事例まで含めた場合は合計1185時間となり、笠雲の発生日数は198日から341日の範囲と推定されました。[1]
同じ観測期間に、吊るし雲は232日、合計1000時間、旗雲は92日、合計323時間確認されています。[1]
ただし、198日から341日という数字を、そのまま「富士山では年間の大半で笠雲が出る」と読むのは適切ではありません。
この幅には、山頂が別の雲に隠れた時間、カメラから確認できなかった時間、接地笠と一般的な山頂雲を明確に分けられなかった事例が含まれています。
また、発生日数は「一日のうち一度でも確認された日」を数えるため、長時間続いた日と短時間だけ現れた日が同じ一日として扱われます。
研究結果が示しているのは、笠雲が極端に珍しい現象ではなく、条件が整えば繰り返し現れるということです。年間の発生確率を単純に示す数字ではありません。

接地笠と離れ笠は湿潤層の高さと関連
研究では、富士山頂を直接覆う笠雲を「接地笠」、山頂との間に隙間がある笠雲を「離れ笠」として区別しました。
観測結果では、笠雲の主要なタイプは接地笠でした。[1][2]
さらに、接地笠と離れ笠の違いは、富士山周辺にある湿った空気の層、つまり湿潤層の高さと強く関連していました。
湿潤層が山頂付近にあるときは、上昇した空気が山頂付近で凝結し、山頂へ接する笠になりやすくなります。
一方、湿潤層の下端が山頂より高ければ、空気が山頂を越えてさらに上昇した場所で雲が形成され、富士山との間に隙間がある離れ笠として見えやすくなります。
ただし、雲の形は湿潤層の高さだけで決まるものではありません。
風速、風向、大気の安定度、温度分布など複数の要素が関わるため、「湿潤層の高さだけでほぼ決まる」と断定せず、最も強く関連した要素の一つとして理解する必要があります。
富士吉田側から富士山を見続けていると、接地笠は山頂の輪郭を包み込むように見えます。離れ笠では、山頂と白い雲の間に青空や薄い空間が残り、山の上に円盤が浮いているように感じられます。
しかし、見る場所が変われば、その隙間の見え方も変わります。
僕自身、麓からは山頂へ接しているように見えた雲が、少し場所を移すと離れて見えた経験が何度もあります。複数方向のカメラを使った今回の方法は、こうした目視の曖昧さを減らすうえで大きな意味があります。
富士山の笠雲は本当に雨の前兆なのか?
笠雲が現れた後は雨になる可能性が高まると伝えられていますが、2025年の研究は降雨確率を検証した研究ではありません。
国土交通省中部地方整備局の富士砂防事務所が紹介している資料では、笠雲が現れた後に雨となる割合は、春と秋が約70%、夏が約75%、冬が約70%とされています。[3]
笠雲と吊るし雲が同時に確認された場合は、雨となる割合が約80〜85%に上がるとも紹介されています。[3]
富士山麓には、古くから次のような観天望気が伝わってきました。
- 富士山が笠をかぶれば近いうちに雨
- ひとつ笠は雨
- 二重笠は風雨
- 笠雲と吊るし雲が同時に出ると天気が崩れやすい
富士山は周囲から大きく独立してそびえています。
湿った風が山体へぶつかると、上昇、冷却、凝結という変化が起こりやすく、大気の状態が雲の形として目に見える形で現れます。そのため、麓の人々は富士山を巨大な気象観測塔のように見てきました。
降雨割合と2025年研究は別の資料
ここは、今回の記事で最も混同してはいけない部分です。
約70〜75%という降雨割合は、2025年に発表された論文が算出した数字ではありません。
2025年の研究が主に分析したのは、次の項目です。
- 笠雲、吊るし雲、旗雲の発生頻度
- 雲の形と発生位置
- 季節別・時間帯別の現れ方
- 上空の風向と風速
- 湿度の高度分布
- 風速や風向の鉛直方向の変化
- 大気の安定度との関係
一方、降雨割合は、富士砂防事務所が過去の観測資料をもとに紹介している観天望気の統計です。[3]
公開されている一般向け資料だけでは、統計の全対象期間、観測地点、事例総数、雨と判定した時間幅などの詳細までは確認できません。
したがって、約70〜75%という数字を、現在の降水短時間予報や気象モデルと同じ精度指標として扱うべきではありません。
正確に整理すると、次のようになります。
過去の資料は笠雲とその後の降雨に経験的な関係があることを示し、2025年研究は笠雲が現れる際の風や湿度の構造を詳しく分析した。
両者は関連していますが、同じ研究結果ではありません。
笠雲ができる仕組み
笠雲は、湿った空気が富士山の斜面に沿って持ち上げられ、上空で冷やされることによって形成されます。
空気は上昇すると周囲の気圧が下がるため膨張し、温度が低下します。空気が露点付近まで冷えると、水蒸気が細かな水滴や氷の粒へ変わり、白い雲として見えるようになります。
山頂に同じ雲が張り付いているように見えても、一つ一つの雲粒が静止しているわけではありません。
風上側では次々と新しい雲粒が生まれ、風下側では空気が下降して温まり、雲粒が蒸発します。生成と消滅がほぼ同じ位置で続くため、笠の形が止まって見えるのです。[3]
低気圧や前線が近づく前には、暖かく湿った空気が流れ込みやすくなります。
そのため笠雲が天気悪化の前に現れることがありますが、低気圧や前線が通過した後、湿った空気が残っている間にも形成される場合があります。
つまり、笠雲を見るときは、存在の有無だけでなく変化を見ることが大切です。
厚みが増しているのか。
山頂を覆う範囲が広がっているのか。
吊るし雲も現れ始めたのか。
反対に、輪郭が崩れ、薄くなっているのか。
一枚の写真よりも、10分後、20分後の変化の方が、空の流れをよく語ってくれます。
笠雲・吊るし雲・旗雲はどう違うのか?
笠雲は山頂付近、吊るし雲は主に風下側、旗雲は山頂から風下へ伸びる位置に現れます。
2025年の研究では、三つの雲について主要な形や発生条件の違いが分析されました。[1][2]
笠雲
笠雲は、富士山頂を覆うか、山頂より上に形成される滑らかな雲です。
研究では接地笠が主要なタイプで、暖かい季節の朝に多く、西南西寄りの比較的強い風が吹く状況と関連していました。
また、湿潤層が山頂付近または山頂より高い位置にあることが、形成に深く関係すると示されています。[1]
吊るし雲
吊るし雲は、富士山の風下側に浮かぶ楕円形や翼形の雲です。
研究以前には翼のような形が代表例として扱われることもありましたが、3年間の観測で主要だったのは楕円型でした。[1][2]
吊るし雲が現れた事例では、南西から西南西寄りの風、比較的高い位置にある湿潤層、高度による風の変化が小さい状態が確認されました。
形成の中心的な仕組みとして推察されたのが山岳波です。
山岳波とは、気流が山を越えた後に上下へ波打つ現象です。空気が波の上昇部分で持ち上げられ、冷えて凝結すると、山から離れた風下側に滑らかな雲が形成されます。
従来は、富士山の左右を回り込んだ風が風下で合流することも主要因の一つと考えられてきました。
今回の研究では、その寄与よりも山岳波の影響が大きい可能性が示され、吊るし雲の主な形成要因は山岳波であると推察されました。[1][2]
ここでも「完全に証明された」とまでは言えません。
観測データから最も整合的な形成過程が示された段階であり、今後の数値シミュレーションや追加観測による検証が必要です。
旗雲
旗雲は、山頂付近から風下側へ旗や馬のたてがみのように伸びる雲です。
研究では、寒い季節の日中に現れやすく、乾燥した北西から西北西寄りの風、高度による風の変化が大きい状態との関連が確認されました。[1][2]
主要な形は馬のたてがみ型でした。
一般的な山岳気象で知られる、山頂から細長く水平に伸びる典型的なバナー状の旗雲は、研究期間中に明瞭な例が2例だけだったと報告されています。[1]
この結果は、教科書的な代表図と、富士山で実際に頻繁に見られる形が必ずしも一致しないことを示します。
研究の価値は、珍しく美しい一枚を選ぶのではなく、3年間の映像を積み重ね、どの形が本当に多かったのかを確かめた点にあります。

富士山麓から見分けるときの注意点
富士山麓から観察する場合は、雲の位置を意識すると違いが分かりやすくなります。
- 山頂を包む、または山頂上空に重なるなら笠雲
- 山から離れた風下側に浮かぶなら吊るし雲
- 山頂付近から一方向へ流れるように伸びるなら旗雲
ただし、一方向からの目視だけで確定することはできません。
遠近感によって、離れた吊るし雲が山頂に接して見える場合があります。複数の雲が重なり、二重笠のように見えることもあります。
僕は富士山を眺めるとき、雲の名前を急いで決めないようにしています。
まず風下がどちらかを見ます。次に、山頂との間に隙間があるかを確認します。そして少し場所を変えるか、時間を置いてもう一度眺めます。
雲は名札を付けて現れません。
分類は理解を助けますが、分からないものを無理に決めつけない姿勢も、自然観察には欠かせないのです。
富士山の笠雲を天気予報や登山判断にどう使う?
笠雲を見つけたら、前線や雨雲、高度別の風、雷情報を再確認する合図として使います。
笠雲だけを見て、登山の実施や中止を決めるのは危険です。
一方で、「珍しい雲が出ているだけ」と無視するのも適切ではありません。笠雲は、富士山上空に湿った空気があり、一定の風が山体を越えている可能性を目に見える形で知らせています。
僕なら、次の順番で確認します。
1. 笠雲が接地笠か離れ笠かを見る
2. 10〜30分後に厚くなったか、薄くなったかを確認する
3. 風下側に吊るし雲が現れていないかを見る
4. 低気圧、前線、台風、雨雲の位置を確認する
5. 山頂と登山ルートの風速、気温、降水、雷情報を確認する
6. 複数の悪化材料が重なれば、延期や早期下山を検討する
特に注意したいのは、次の三つが同時に見られる場合です。
- 笠雲が時間とともに厚くなっている
- 前線や低気圧が富士山へ近づいている
- 山頂付近に強風、雨、雷の予報が出ている
三つがそろえば、昔からの観天望気と現代の予報データが、同じ方向の変化を示していることになります。
登山では、予定を守ることより、状況に応じて予定を変えられることの方が重要です。
出発を遅らせる。
山頂を目指さず途中で引き返す。
登山日そのものを変更する。
これらは弱気な選択ではありません。山が示した変化を読み取り、自分の命に責任を持つ選択です。
登山中は実際の危険を優先する
登山者が笠雲の内側へ入ると、麓から見える美しい笠の形は分かりません。
登山道では、霧や低い雲に包まれたように感じるだけです。そのため、登山中は雲の分類より、実際に起きている変化を優先してください。
- 横風や突風で身体が流される
- 急速に視界が悪化する
- 雨具を着ても身体が冷え続ける
- 雷鳴が聞こえる、または発雷情報が出る
- 計画より大幅に歩行が遅れる
- 山小屋や現地スタッフから中止を勧められる
こうした状況では、笠雲かどうかに関係なく、標高を下げる、山小屋へ入る、引き返すといった行動が必要です。
夏の午後は、谷風や対流によって山頂付近に雲が発達し、笠雲に似て見える場合もあります。
滑らかな笠雲に対し、対流雲は輪郭の凹凸が増え、縦方向へ成長する傾向があります。ただし、目視だけでの判別は困難です。
「笠雲ではなさそうだから安全」とは考えず、夏の午後は雨雲と発雷情報を優先してください。
筆者の考察|笠雲研究は観天望気をどう変えたのか
ここからは、研究結果を踏まえた僕個人の考察です。
今回の研究の価値は、「笠雲が出れば雨」という言い伝えを、そのまま肯定したことではありません。
接地笠と離れ笠を分け、吊るし雲と旗雲を区別し、それぞれに異なる風や湿度の構造が関係していることを示した点にあります。
一つの言い伝えに複数の現象が含まれていた
観天望気は、長年の経験を短い言葉へ圧縮した知恵です。
しかし「富士山が笠をかぶれば雨」という一文の中には、前線が近づく前の笠雲、悪天候が通過した後の笠雲、夏の対流雲、離れ笠、山頂付近の一般的な雲が混ざっている可能性があります。
同じ笠のように見えても、大気の状態まで同じとは限りません。
2025年の研究は、形、季節、時刻、風向、湿潤層の高さを分けて調べることで、観天望気を否定するのではなく、より細かく読み直す道を開いたと僕は考えます。
発生頻度と予報精度を混ぜてはいけない
笠雲が198日から341日の範囲で確認されたという結果は、雲が観測された日数に関する情報です。[1]
笠雲の後に約70〜75%の割合で雨になったという資料は、その後の天気との関係を示す別の情報です。[3]
この二つをつなげて、「2025年研究で笠雲の雨予報が75%当たると証明された」と書くことはできません。
発生日数が多いことは、予報精度が高いことを意味しないからです。
科学的に誠実な読み方は、次の一文に集約できます。
2025年研究は笠雲の発生条件と形の特徴を分析し、過去の観天望気資料は笠雲と降雨の経験的な関連を示している。
地味な線引きに見えるかもしれません。
けれども、研究結果を必要以上に大きく見せないことこそ、読者の信頼を守る基本です。
研究にはカメラ観測特有の限界もある
ライブカメラは、同じ場所を長期間にわたって観測できる優れた道具です。
一方で、夜間、濃霧、雨、雪、低い雲による遮蔽があると、山頂付近の形を確認できません。カメラの画角外に雲が形成された場合も、全体像を捉えられないことがあります。
目視による分類には、接地笠と一般的な山頂雲を取り違える可能性も残ります。
また、各季節や時間帯の発生数を評価するときは、単純な事例数だけでなく、その時間帯に山頂が観測可能だった時間を分母として考える必要があります。
夏の朝は山頂が見えやすく、午後は対流雲に隠れやすいとすれば、見かけ上の発生頻度にも観測条件の差が影響します。
研究チームが複数方向の映像や明瞭な判定基準を採用したのは、こうした偏りをできる限り減らすためです。それでも完全には取り除けないため、結果は絶対的な法則ではなく、3年間の観測から得られた傾向として読む必要があります。
今後は画像判別と数値予報を結び付けられる
今後は、ライブカメラ画像から接地笠、離れ笠、吊るし雲、旗雲を自動判別し、高度別の風と湿度、前線、降水予報を組み合わせる研究が進む可能性があります。
今回の研究でも、風向と風速の鉛直分布、湿度の鉛直分布、大気境界層の構造などを数値シミュレーションで詳しく検証する必要性が示されています。[2]
自動判別が実用化されても、笠雲だけで雨の時刻や量を決めることはできないでしょう。
しかし、「接地笠が急速に成長している」「風下に吊るし雲が同時に現れた」「上空の湿潤層が厚くなっている」といった複数の情報を組み合わせれば、現地の変化を早く察知する補助情報にはなり得ます。
僕は、ここに観天望気の未来があると感じます。
昔の人が目と経験で読んだ雲を、現代のカメラと気象データが別の角度から読み直す。どちらか一方が正しいのではなく、観察と科学が重なるところに、より確かな理解が生まれます。
笠雲は未来を命令する標識ではありません。
「上空の流れが変わっている。いま持っている情報を、もう一度確かめてほしい」と知らせる合図です。
霧に隠れる富士は、人の心の迷いに似ています。
けれども山に答えを決めてもらう必要はありません。一度足を止め、空を観察し、予報を確かめ、安全な選択を自分で選び直すことが大切なのです。
まとめ
富士山の笠雲は、湿った空気が山体に沿って上昇し、冷やされることで形成されます。
2025年10月30日にオンライン公開された研究では、7台のライブカメラを用いて2019年から2021年までの3年間を観測し、笠雲・吊るし雲・旗雲の発生頻度、主要な形、風向、湿潤層、鉛直シアーとの関係を分析しました。
笠雲では接地笠、吊るし雲では楕円型、旗雲では馬のたてがみ型が主要でした。笠雲は暖かい季節の朝、西南西寄りの比較的強い風、山頂付近またはそれより高い湿潤層と関連していました。
一方、笠雲の後に約70〜75%の割合で雨になるという数字は、富士砂防事務所が紹介している過去の観天望気資料によるものです。2025年研究が降雨確率を再計算したわけではありません。
笠雲を見つけたら、雨を断定するのではなく、雲の変化、前線、雨雲、雷、高度別の風を確認してください。
白い笠は、未来を言い当てる占いではありません。
目には見えない風と湿度が富士山に触れ、空の変化を一瞬だけ形にしたものです。その姿は僕たちへ、予定を守る前に、安全を確かめたかと静かに問いかけています。
よくある質問
富士山に笠雲が出ると必ず雨になりますか?
必ず雨になるわけではありません。
過去の観天望気資料では、笠雲の後に雨となる割合は季節により約70〜75%と紹介されています。ただし、雨の時刻や降水量を示す予報ではないため、前線、雨雲、雷、上空の風と組み合わせて判断してください。
2025年の研究で雨の確率70〜75%が証明されたのですか?
いいえ。
2025年の研究が分析したのは、笠雲などの発生頻度、形、季節、時間帯、風向、風速、湿度の高度分布です。約70〜75%という降雨割合は、富士砂防事務所が過去の資料をもとに紹介している別の統計です。
接地笠と離れ笠の違いは何ですか?
接地笠は富士山頂を直接覆い、離れ笠は山頂との間に隙間を残して上空に形成されます。
2025年の研究では、この違いが湿潤層の高さと強く関連していることが示されました。ただし、風速や大気の安定度など、ほかの条件も影響します。
参照資料
[1] Hiroyuki Kusakaほか「Characteristics of unique cap, Tsurushi and Hata clouds around Mount Fuji」『Weather』、2025年10月30日オンライン公開、DOI:10.1002/wea.7774。観測方法、雲の分類、発生日数・発生時間、風および湿度条件は、同論文のMethodsおよびResults各節に基づく。オンライン版と冊子版ではページ構成が異なる場合があるため、論文名とDOIによる確認が確実である。
[2] 筑波大学計算科学研究センター「富士山周辺に発生する特徴的な雲の発生頻度や条件を科学的に解明」、2025年11月25日発表。研究機関、観測期間、主要結果、今後の数値シミュレーションに関する説明を参照。
[3] 国土交通省中部地方整備局 富士砂防事務所「富士山の雲と天候の関係」。笠雲の形成過程、観天望気、笠雲出現後の降雨割合、笠雲と吊るし雲が同時に現れた場合の降雨割合を参照。一般公開資料では統計の全対象期間、事例総数、降雨判定の時間幅が明示されていないため、確率予報ではなく経験的資料として扱った。
執筆:神楽 岳志


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