この山を何度も登り、四季すべての顔を記録してきたけれど──湯面に映る富士ほど“生きている”と感じた瞬間はなかった。風が庭を渡り、湯けむりが光を散らす。目の前にあるのはただの景色ではなく、心の奥を映す鏡だった。
「静けさ」とは、音が消えることではない。心のざわめきが、富士の懐に吸い込まれていく瞬間のことだ。山梨県富士吉田市の富士山温泉 ホテル鐘山苑──ここには、富士と向き合い、自分の内側を見つめ直すための“静寂の時間”がある。
鐘山苑とは|富士山の懐に抱かれた癒やしの宿

初めてこの宿を訪れたとき、正面に現れた富士の姿に思わず「ここまで見えるのか!」と声が出た。所在地は山梨県富士吉田市上吉田東9-1-18、富士の北麓でも屈指の高台に建つ温泉宿だ。
運営は 富士山温泉 ホテル鐘山苑。名前の通り、富士山を望むために設計された宿で、広さ25,000坪の庭園と、富士を正面に据えた建築デザインが見事に融合している。公式サイトはこちら:https://www.kaneyamaen.com/
宿の敷地に一歩足を踏み入れると、空気が変わる。庭の緑と湯けむりの向こうに、雄大な富士が“どん”と構えている。その迫力に、富士を何百回も見てきた僕でさえ胸が高鳴った。
スタッフの所作も見事で、言葉の端々に「富士と生きてきた土地の誇り」を感じる。観光目的の宿というより、“富士を体感するための舞台”。山梨県観光局の紹介でも「富士山の眺望と癒しを両立する旅館」として高く評価されているのも納得だ。
「富士を間近に感じながら、心の奥が静まるような時間を過ごせる宿」──山梨県観光公式サイト
僕自身、これまで数多くの“富士の見える宿”を取材してきたが、ここまで“富士が主役”の宿は珍しい。部屋に入るたび、風呂に浸かるたび、庭を歩くたび──どこにいても、必ず視界のどこかに富士がいる。これが鐘山苑のすごさだ。
絶景の露天風呂|湯けむり越しに見る“生きている富士”

鐘山苑に来たなら、絶対に体験してほしいのが屋上の「露天風呂 富士山」だ。もう名前からして反則級だけど、実際にその湯船に立つと──想像を軽く超えてくる。
湯けむりの向こう、真正面にどーんと構える富士山。あのスケール感、空との距離感、肌で感じる風の冷たさ。僕はこれまで世界中の山を見てきたけれど、湯に浸かりながら富士を“生きている存在”として感じたのは、ここが初めてだった。
朝霧の時間帯は特におすすめだ。湯面に差し込む朝日と、山肌を照らす淡い光。手を伸ばせば届きそうなほど近い富士が、湯けむりの向こうでゆっくり息づいている。カメラを構える人も多いけれど、僕はもう湯から出られなかった。目の前の富士が、あまりに“完璧”だったから。
露天風呂は男女入れ替え制で、立湯・寝湯・石風呂など湯船の種類も豊富。どの位置からも富士が視界の中心に来るように設計されている。ここまで“富士を見るための温泉”に徹している宿は、本当に珍しい。
湯の温度は少し熱め。体の芯から温まりながら、冷たい空気と富士の存在感が同時に押し寄せてくる。僕の中で何かが、スッと整う感覚があった。
富士を見上げるのではなく、富士と“同じ高さ”で湯に浸かる──そんな贅沢が、ここにはある。
庭園の四季|自然が語りかける静けさ

鐘山苑の庭園は、想像していた「きれいな庭」を軽く超えてくる。なんと敷地は25,000坪。数字で聞くより実際に歩いたほうが早い──広い。とにかく広い。そして、どこを歩いても手入れが完璧だ。
春は桜が風に舞い、夏は青もみじが光を跳ね返す。秋になると庭全体が赤く燃え、冬は雪が静かに枝を包む。そのたびに富士山の表情も変わり、「この庭は富士と一緒に呼吸している」と本気で思う。
庭の中央には小川が流れ、石橋を渡ると、正面に富士の頂が見える。あのバランス感覚、絶対に計算されてる。思わず「この設計、誰が考えたんだろう」と口に出してしまうほど見事だ。
夜の庭園もすごい。灯りが低い位置から木々を照らし、まるで光が地面を這うよう。湯上がりの身体に夜風が気持ちよくて、気づけば小一時間も歩いていた。静かなんだけど、ワクワクする静けさなんだ。
この庭を歩くと、富士山は「眺めるもの」から「一緒にいるもの」に変わる。そんな体験をさせてくれる宿、全国探してもなかなかない。
富士を眺める庭じゃない。富士と一緒に息づく庭だ。
客室と料理|富士の気配を味わう

客室に入った瞬間、「うわ、これは反則だろ」と思った。障子を開けると、目の前いっぱいに富士山。窓枠がそのまま“額縁”になって、一枚の絵みたいに山がそこにある。正直、しばらく動けなかった。
鐘山苑の客室はどれも個性があって、和モダンタイプから数寄屋造り、露天風呂付きの特別室までさまざま。中でも人気なのが「話楽(ゆらく)」シリーズ。露天風呂に浸かりながら富士を眺める瞬間は、もう理屈抜きでテンションが上がる。夜はライトアップされた庭、朝は黄金色の富士──同じ窓なのに、時間ごとにドラマが変わる。
部屋の中も細部までこだわっていて、畳の香り、障子越しの光、静かな空調の音までが心地いい。取材で何度も宿を巡ってきたけど、ここまで「部屋そのものがリセットボタン」みたいな空間は珍しい。
そして料理。これがまた本気だ。旬の地元食材を使った懐石で、器も盛り付けも完璧。特に富士山の伏流水で炊かれたご飯は、びっくりするほど甘い。思わず「え?これ本当に白米?」って声が出たくらい。山梨のワイン豚や川魚の焼き物も絶妙で、食べながら「富士の恵みを食べてるな」と実感する。
料理長いわく、「富士山の水と空気がすべての素材を支えている」とのこと。なるほど、だから一皿ごとに“この土地の呼吸”を感じるんだ。
正直、食事のあと部屋に戻っても、まだワクワクが冷めなかった。窓の外に富士のシルエットがうっすら残っていて、「あぁ、この景色と味をセットで覚えておきたい」と思った。
体験レビュー|心が“無音になる”瞬間

正直、この宿をなめてた。取材前は「どうせ眺めのいい温泉でしょ?」くらいの気持ちだった。でも違った。完全にやられた。
僕が泊まったのは晩秋の夜。露天風呂に浸かった瞬間、目の前に富士がどーんと立ってた。しかも星空を背負って。湯けむりが風で流れるたび、山肌がライトに照らされて浮かび上がる。その光景を見た瞬間、「うわ…」と声が漏れた。まじで反射的に出た。
普段なら取材メモを取るところなんだけど、そのときだけはペンを置いた。何も書きたくなかった。というか、書けなかった。
ただただ、富士を見ていた。音が全部消えて、自分の呼吸の音しか聞こえない。頭の中も空っぽになる。これが“無音になる”ってことか、と思った。
不思議なことに、見ているうちに富士が“山”じゃなく“存在”に見えてきた。
「湯けむりの向こうにいたのは、富士じゃなくて、自分だったのかもしれない」──そんな感覚になった。
あの夜の静けさは、今でも思い出すだけで鳥肌が立つ。あれを体験してしまうと、ほかの温泉ではもう物足りなくなる。たぶん一生、僕の中であの景色が基準になる。
鐘山苑を楽しむための滞在ヒント

どうせ行くなら、全力で楽しんでほしい。取材で何度も訪れた僕が「これは外せない!」と感じたポイントをまとめてみた。どれも実際に試してテンション上がったものばかりだ。
- 晴天の日の朝風呂はマスト!:朝7時前後、湯けむりの向こうに富士の輪郭がくっきり浮かぶ。湯に浸かりながら「今日この瞬間のために来たんだ」と思える時間。
- 霧の日もチャンス!:富士が隠れるほど、庭園が主役になる。湯けむりと霧が混ざって、幻想的どころじゃない。写真じゃ伝わらない“生の空気”がある。
- 庭園散策は湯上がりが最高:体が温まった状態で歩くと、風や土の匂いが五感に刺さる。庭の石橋を渡るとき、ふと振り返ると富士が顔を出してることも。
- 日帰り利用でも十分満足:宿泊できなくても大丈夫。公式サイトで時間をチェックして立ち寄り湯だけでも価値がある。あの露天は体験しないと損。
- 静けさを味わうなら平日泊:週末は人気で賑やか。平日だと、露天も庭も貸切気分。あの広い庭園を独り占めする瞬間は、正直ちょっと震える。
どの過ごし方にも共通して言えるのは、「富士を眺める」じゃなく「富士と過ごす」という感覚。
行動ひとつひとつが、この宿をもっと深く楽しむ鍵になる。
よくある質問(FAQ)
- Q. 富士山は必ず見えますか?
- 正直に言うと、天気次第です。でも晴れた日の破壊力はすごい。朝風呂に入っていて、湯けむりの向こうに富士の稜線がくっきり浮かんだ瞬間──思わず「うわっ!」って声が出ます。
逆に、霧の日はまったく違う楽しみ方ができます。富士が隠れるぶん、庭園の静けさと湯のぬくもりが際立つんです。個人的には“見えない富士”の日も大好き。どっちの日に当たっても得した気分になれます。 - Q. 日帰り利用はできますか?
- はい、できます!これがまた嬉しいポイント。時間限定で立ち寄り湯が利用できます。取材でふらっと立ち寄ったことがあるんですが、正直「これで帰っていいのか?」って思うくらい満足しました。
露天からの富士ビューは宿泊者と同じ。時間があれば庭園も軽く散策してみてください。立ち寄りでも“鐘山苑の空気”はしっかり感じられます。
公式サイトで最新情報をチェックしておくと安心です。→ 公式サイトはこちら - Q. 食事は部屋食ですか?
- プランによりますが、どれを選んでも間違いなし。懐石料理は地元の旬が中心で、一品ごとに「これ、うまっ」って言いたくなるレベルです。
特にご飯!富士山の伏流水で炊いていて、ツヤと甘みがすごい。僕は取材中でもおかわり3杯いきました(笑)。器や盛り付けも丁寧で、「食べる」というより“体験”に近い時間です。
どの質問にも言えるのは、行ってみないとわからないワクワクがあるということ。
鐘山苑は「知る」より「体感する」宿。質問の答えを確かめに行く、それ自体がもう旅の始まりです。
まとめ|富士の静寂が教えてくれること

鐘山苑で過ごす時間は、ただの「温泉宿の滞在」じゃない。富士を目の前にすると、自分の中のスイッチが勝手に切り替わる。スマホも時計も気にならなくなる。気づけば湯けむりの向こうを見つめながら、無意識に深呼吸している。
富士山って、遠くから見るより、近くで静かに対峙したときのほうが“心に響く”。鐘山苑はその“対峙の場所”なんです。豪華さとか絶景とか、そういう言葉では足りない。体験そのものが、もう癒しになっている。
宿を出る朝、ふと振り返ると、富士が雲の切れ間から顔を出した。あの一瞬だけで「来てよかった」と思えた。たぶん、誰が行っても同じ気持ちになるはずです。
もしあなたが「最近ちょっと疲れたな」「自分を整えたいな」と思うなら、ここに行ってみてください。富士が全部リセットしてくれます。僕がそうだったように。
湯けむりの向こうにあるのは、富士でも景色でもなく、“あなた自身を取り戻す時間”です。


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