潮の香を含んだ風が頬を撫で、湯けむりの向こうに、ひっそりと富士の輪郭が浮かび上がる。
その光景を前に、僕は幾度となく息をのんできた。
何度も登った富士登山の中でも、これほど心を鎮める瞬間はそう多くない。
山を知り、湯を知る者として断言できる──静岡ほど、“海と富士”が一つになる場所はない。
地質学的に見ても、駿河湾の深い海溝と富士の火山帯がつくり出す景観は、世界にも類を見ない。
この記事では、富士の麓・富士吉田で生まれ育った僕 神楽岳志 が、長年の取材と実体験をもとに、
駿河湾越しに富士山を望む珠玉の温泉を厳選して紹介しよう。
富士山が見える静岡の温泉とは？──“海越し富士”の魅力
「海の向こうに富士山が見える温泉」。この言葉を聞くだけで、旅好きの血が騒ぐ人は多いだろう。
静岡には、まさにそんな“夢のような場所”がいくつもある。しかも、どれも僕が何度も足を運び、湯に浸かりながら確かめた“本物”ばかりだ。
特に駿河湾。日本一深いこの湾の先に、雪をかぶった富士山が凛と立つ光景は、何度見ても心が震える。
冬の朝、湾の水面が風ひとつなく鏡のように静まると、富士山が海に映り、まるで“空と海のあいだに浮かぶ山”のように見えるのだ。
地元の人たちは、この瞬間を「海越し富士」と呼んで大切にしている。
僕自身、何度も富士山に登ってきたが、この「駿河湾越しの富士」だけは特別だ。
登る富士でも、見る富士でもない。湯けむり越しに、じっと向き合う富士。
風の向きや光の加減によって表情を変え、まるで“今日のあなたにしか見せない顔”をしてくる。
そんな富士を、温泉という最高の舞台で味わえるのが、静岡の最大の魅力だ。
この記事では、地元出身の僕・神楽岳志が、長年の取材と体験をもとに、
「海と富士の両方を楽しめる絶景温泉」を厳選して紹介していく。
湯に浸かりながら、駿河湾の潮風と富士の静けさを感じる──そんな旅を、次の休日に計画してみてほしい。
絶景の湯①｜用宗みなと温泉──“港と富士”が交わる湯
「海のすぐそばで、湯に浸かりながら富士山が見える」。──そんな夢みたいな場所が、本当にあるんです。
静岡市の海辺にある用宗（もちむね）みなと温泉。初めて訪れた日、湯船に身を沈めた瞬間、思わず声が出ました。
目の前いっぱいに広がる駿河湾、その向こうに雪をかぶった富士山。まるでスクリーン越しではなく、“世界の本番”を見ているような感覚です。
ここは、地元の小さな漁港のすぐそば。港に並ぶ船や網、潮の香り、そして湯けむりの向こうに富士。
そのコントラストがたまらない。取材という名目を忘れて、つい長湯してしまったのを今でも覚えています。
特におすすめは、空気が澄む冬の朝。海面が鏡のように静まり返り、富士山が海に映る光景は、まさに「日本一のモーニングショー」。
朝日が差し込む瞬間、湯面が黄金色に揺れて、富士がゆっくりと姿を現す。その瞬間の“無音の感動”は、何度体験しても慣れません。
そして、湯上がりはぜひ港町グルメを。
すぐ隣の食堂で食べる「用宗しらす丼」は、まさに海の恵みそのもの。
湯で温まった体に、潮風としらすの香りが最高のご褒美になります。
ここでは、「湯に浸かる」というよりも、“海と呼吸している”感覚に近い。
静岡の温泉を語るとき、僕は必ずこの場所を最初に紹介します。
それくらい、富士と海と湯がひとつに溶け合う光景が、ここにはあります。
絶景の湯②｜土肥温泉──夕日に染まる“逆さ富士”
静岡の温泉を語るなら、この場所を外すわけにはいかない。
西伊豆・土肥温泉（といおんせん）。ここは「駿河湾の絶景温泉」の代名詞だ。
夕暮れどき、海と空がゆっくりと金色に染まっていく。
その奥に浮かぶ富士山――そして水面に映る“逆さ富士”。
この光景を目にした瞬間、思わず「来てよかった」と心の中で叫んでいた。
取材で訪れたのは冬の終わり。海風が冷たいぶん、湯のぬくもりが体の芯に染みていく。
そして露天風呂の縁から見上げたとき、ちょうど太陽が沈みかけ、富士の稜線が赤く縁取られた。
あの瞬間は今でも鮮明に覚えている。
湯けむり越しに見た夕陽と富士のコントラスト──あれは、まさに“静岡の黄金時間”だ。
おすすめは老舗旅館「玉樟園新井」や「牧水荘土肥館」。
露天風呂から見る夕景は、絵葉書でもスクリーンでもなく、“現実が映画を超える瞬間”。
湯に反射する光がゆらめき、まるで時間そのものが穏やかに溶けていくようだった。
日帰りなら、地元の人も集う「弁天の湯」へ。
湯上がりに土肥の街を歩くと、漁火がまたたき、波音がリズムを刻む。
ふと立ち止まって海を振り返ると、まだ富士が薄紅の空に残っていた。
その姿を見送るたびに、「またこの場所に戻ってきたい」と思わされる。
絶景の湯③｜伊豆長岡温泉──湯けむりの街に浮かぶ富士の影
伊豆の真ん中あたり、狩野川のほとりに広がる伊豆長岡温泉。
「伊豆の小京都」と呼ばれるこの温泉街に足を踏み入れると、まず驚くのが“街全体が湯けむりに包まれている”こと。
路地を曲がるたびに、ふわっと温泉の香りが漂ってきて、旅のスイッチが一気に入る。
この温泉の魅力は、なんといっても“街の中から富士山が見える”という贅沢さ。
内陸にありながら、空気が澄んだ日には、狩野川の向こうに堂々と富士が姿を現す。
あの瞬間の高揚感といったら、思わず誰かに「見て！」と言いたくなるほどだ。
宿を選ぶなら「湯めぐりの宿 吉春」。露天風呂から見える富士山のシルエットは本当に見事。
僕が取材で訪れた夜は、ちょうど月が富士の上にかかり、湯けむりが金色に染まっていた。
その光景にカメラを構えるのも忘れ、気づけばただ湯の中で笑っていた。
“ああ、これが伊豆長岡か”と、心から納得した瞬間だった。
この街では、湯そのものを楽しむというより、“湯と人、そして街全体で癒される”感覚に近い。
温泉街を歩けば、老舗の宿、足湯、地元の菓子店、そして笑顔の人たち。すべてがやわらかく時間をゆるめてくれる。
富士山が見えたら、もうそれだけで一日が特別になる──そんな街だ。
絶景の湯④｜御殿場・時之栖エリア──富士を仰ぐ高原の湯
富士山を「見る」じゃなく、「感じる」場所に行くなら、ここです。
標高およそ450m、御殿場。この街は、まるで富士山の膝の上に座っているような場所。
湯に浸かりながら顔を上げると、ドンッと巨大な富士が目の前に構えている。その迫力に、思わず「近っ！」と声が出るほどです。
中でも人気なのが、「時之栖（ときのすみか）」の日帰り温泉・気楽坊。
露天風呂に身を沈めると、富士山の稜線が湯けむりの向こうに浮かび上がります。
昼は真っ白な雪化粧の富士。夜はライトアップに照らされて、黒いシルエットが星空に映える。
まるで昼と夜で“二度登った”ような、ダブルの感動が味わえるんです。
僕が訪れた日は、朝霧が出ていました。
湯けむりと霧が混ざり合って、富士山がぼんやりと浮かび上がる――その瞬間、取材ということを完全に忘れて見入ってしまいました。
この「ほんの数分の奇跡」を見るために、もう一度来たいと思わせる場所です。
温泉を出たあとは、お楽しみがもう一つ。
敷地内で味わえる御殿場高原ビールは本気でうまい。
湯上がりの一口目、冷たいビールが喉を抜ける瞬間、「これぞ高原の幸せ」と叫びたくなります。
地元ワインやソーセージの盛り合わせも絶品で、“温泉＋グルメ＋富士山”という三拍子が完璧にそろっているんです。
御殿場は、富士山の迫力を肌で感じられる“特等席”。
見る角度、時間、天候によって、まったく違う表情を見せてくれるから、訪れるたびに新しい発見があります。
僕がこのエリアを紹介するときにいつも伝えているのは一つ──「富士山を一番近くで感じたいなら、迷わず御殿場へ」。
駿河湾と富士山が見える温泉を楽しむ旅のヒント
1. 富士山がいちばん美しく見えるのは「冬」！
これ、地元民ならみんな知っている“鉄板の真実”です。
12月〜2月の静岡は、空気がピンと澄んでいて、雲が少ない。だから富士山がくっきり！
特に早朝と夕暮れは、光が斜めに差して富士の陰影が立体的に見えるんです。
湯けむり越しに浮かぶあの姿は、何度見ても鳥肌もの。
寒い季節こそ、温泉×富士山のゴールデンシーズンです。
2. 富士見のカギは「風」！ 西風が吹いたらチャンス！
「今日は西風だ！」と思ったら、迷わず温泉バッグを掴んで出かけましょう。
湿気が少なく、雲が流れやすい西風の朝は、富士山が驚くほどくっきり見えます。
地元カメラマンたちもこのタイミングを狙って動くほど。
スマホでも、まるでプロが撮ったような写真が撮れます。
3. 撮るなら“朝霧タイム”を狙え！
夜明け直後、湯けむりと霧が重なる数分間。
富士山が半透明に浮かび上がるあの瞬間は、何度見てもゾクゾクします。
カメラ片手に温泉の湯気をくぐる時間ほどワクワクするものはありません。
「ちょっと早起きして良かった…！」と必ず思えます。
4. 湯上がりグルメを制する者が、静岡旅を制す！
温泉の後は、駿河湾の味覚が待っています。
「しらす丼」「桜えびのかき揚げ」、そして冷えた地酒「開運」「臥龍梅」。
もう最高です。これがあるから静岡の温泉旅はやめられない。
海の香りと湯の余韻を同時に味わう――そんな贅沢、他ではできません。
富士山を“見る”だけじゃなく、“狙う・浸かる・味わう”。
その全部がそろっているのが静岡の温泉旅の魅力です。
次の休日、ちょっと早起きして、富士見温泉めぐりに出かけてみませんか？
まとめ──湯の向こうにある“静岡の心”
富士山を眺めながら温泉に浸かる。
これ、実際に体験してみると「絶景」なんて言葉じゃ足りません。
湯のぬくもりと冷たい空気、そして目の前の富士山。
その全部が一気に押し寄せてきて、思わず「うわ、すごい…！」と声が出てしまうんです。
静岡の温泉の面白いところは、ただ景色がきれいなだけじゃない。
海と山、都会の便利さと自然の静けさ──その“相反するもの”が、うまく共存してる。
だからこそ、旅人の心をギュッと掴んで離さないんです。
湯けむりの向こうに浮かぶ富士山を見ながら、「あぁ、日本ってすごいな」と思う瞬間がある。
そして気づくと、自分の心まで少し澄んでる。
それが、静岡の温泉が持つ“魔法”なんですよ。
この記事を書きながら、僕自身もまた行きたくなってしまいました。
富士山の見える露天風呂、駿河湾の潮風、そして湯上がりのしらす丼。
次の休日、どの温泉にしようか――そう考えるだけで、もうワクワクしてきます。
あなたもぜひ、自分だけの「海と富士の湯」を探しに出かけてみてください。
きっとその湯の向こうに、“静岡の心”が待っています。
FAQ（よくある質問）
- Q1：富士山がよく見える時間帯は？
- ズバリ、冬の朝7〜9時ごろ！
この時間帯は空気が冷たくて澄んでいるので、富士山がくっきり。
朝日を浴びてほんのりオレンジに染まる富士は、まさに「早起きのご褒美」です。
僕も取材のときは、眠い目をこすりながら湯に浸かって「来てよかった〜」と毎回思ってます。 - Q2：雨の日でも見える？
- 意外と見えるんです、これが！
雨上がりの空気は澄んでいて、雲が流れ始めたタイミングで“浮かぶ富士”が現れることがあります。
湿った湯けむりと混ざって、まるで富士山が湯の中に沈んでいるような不思議な光景。
僕のおすすめは、雨上がりにもう一度温泉に入り直すこと。チャンスはそこにあります！ - Q3：カップルや家族旅行におすすめの温泉は？
- 伊豆長岡温泉と土肥温泉が断然おすすめです。
どちらも貸切露天風呂が充実していて、プライベートな空間で富士山を独り占めできます。
湯に浸かりながら「見て！あの富士、すごい！」って自然に声が出るような瞬間が待ってます。
家族旅行なら、お子さんも富士を見てテンションMAX。
旅の思い出が“富士の写真”だけじゃなく、“富士と笑顔”になります。
引用・参考情報
本記事は以下の公的・一次情報をもとに構成しています。
※気象条件や見え方は季節・時間帯により異なります。現地に行く際は公式サイトや天候情報をご確認ください。
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