富士山登山の成否は、登山口となる五合目へのアクセス計画で決まります。各ルートのマイカー規制や直通バスを把握することが安全登山の第一歩です。
富士山は、ただ高くそびえ立つだけの山ではありません。太古の火山活動が刻んだ荒々しい山肌、原生林が息づく裾野、そして山頂から見下ろす雲海は、訪れる人の心を静かに映し出す鏡のようです。
僕が初めて富士の土を踏んだ少年時代から現在に至るまで、この山は常に異なる表情を見せてくれました。しかし、雲上の別世界へ足を踏み入れるためには、まず標高2,000m前後に位置する各五合目へ確実に辿り着かなければなりません。
富士山には山梨県側に1つ、静岡県側に3つの主要な登山ルートが存在し、それぞれ登山口の標高やアプローチ手段が大きく異なります。
2026年の開山期におけるマイカー規制の日程や乗り換え拠点、主要駅から運行される登山バスや直通高速バス、特急列車の詳細までを網羅して分かりやすく整理しました。
富士山4大登山ルートの基本情報と登山口の比較

富士山には「吉田ルート」「富士宮ルート」「須走ルート」「御殿場ルート」という4本の登山道があり、それぞれ個性と難易度が異なります。
登山口の標高差や歩行距離、山小屋の配置状況を把握しておくことは、アクセス手段を選ぶ際の大切な前提条件となります。
ルート名 登山口(五合目) 登山口標高 登り距離・目安時間 下り距離・目安時間 主な特徴・道質
吉田ルート(山梨県側) 富士スバルライン五合目 2,305m 6.8km / 約6時間 7.0km / 約4時間 山小屋が多く初心者向き。登下山道が別。岩場・砂礫
富士宮ルート(静岡県側) 富士宮口五合目 2,400m 4.3km / 約5時間 4.3km / 約3時間 最短距離で標高差最小。急登と岩場が続く。登下山道が同一
須走ルート(静岡県側) 須走口五合目 2,000m 6.9km / 約7時間 6.2km / 約3時間20分 豊かな樹林帯と豪快な砂走り。本八合目で吉田ルートと合流
御殿場ルート(静岡県側) 御殿場口新五合目 1,440m 10.5km / 約9時間 8.4km / 約3時間30分 標高差最大・最長距離の健脚向け。名所「大砂走り」あり
山梨県側の吉田ルートは、最も多くの登山者が利用する定番コースです。富士スバルライン五合目(標高2,305m)から山頂までの標高差は約1,450mで、登山道と下山道が完全に分かれており、ルート上には数多くの山小屋が立ち並びます。
静岡県側の富士宮ルートは、4大ルートの中で最も標高の高い富士宮口五合目(標高2,400m)からスタートします。山頂までの標高差は約1,320mと最も小さく、距離も4.3kmと最短ですが、そのぶん傾斜がきつくゴツゴツとした岩場が連続します。
須走ルートは、須走口五合目(標高2,000m)を出発し、豊かな樹林帯を抜けて山頂を目指す標高差約1,700mのコースです。下山時には標高差約700mを一気に駆け下りる「砂走り」を体感できます。
御殿場ルートは、御殿場口新五合目(標高1,440m)からスタートするため、山頂までの標高差が約2,300m、登りの歩行距離は10.5kmに達します。山小屋が少なく傾斜も緩やかな火山砂礫が続くため、十分な体力と経験が求められる健脚向けルートです。
2026年夏の富士山マイカー規制情報と山麓駐車場の使い方
夏の富士山登山シーズンには、自然環境の保全と登山道周辺の深刻な交通渋滞を緩和するため、各アクセス道路で自家用車の乗り入れ規制(マイカー規制)が実施されます。
自家用車で現地へ向かう場合は、山麓に設けられた指定駐車場へ車を止め、そこから有料のシャトルバスまたはシャトルタクシーに乗り換えて各五合目を目指すシステムになっています。
- 富士スバルライン(吉田ルート):山麓の「富士山パーキング(富士北麓駐車場)」を利用し、シャトルバスで富士スバルライン五合目へ向かいます。
- 富士山スカイライン(富士宮ルート):2026年7月10日(金)9時〜9月10日(木)18時まで連続63日間の規制。山麓の「水ヶ塚公園駐車場」を利用します。
- ふじあざみライン(須走ルート):2026年7月1日(水)9時〜9月10日(木)18時まで連続72日間の規制。「道の駅すばしり」近くの「須走多用途広場」を利用します。
- 御殿場口新五合目(御殿場ルート):マイカー規制なし。登山シーズン中も登山口駐車場(約450台・無料)まで自家用車で直接アクセス可能です。
静岡県側の富士宮口(富士山スカイライン)では、例年通り開山にあわせた7月10日午前9時から9月10日午後18時まで自家用車の通行が規制されます。
拠点となる「水ヶ塚公園駐車場」は有料で、敷地内には売店や公衆トイレが完備されています。
須走口(ふじあざみライン)は、2026年から開通予定が7月1日に前倒しとなることに伴い、マイカー規制も7月1日午前9時から9月10日午後18時までの72日間にわたって実施されます。
乗り換え場所となる「須走多用途広場」は無料で利用でき、公衆トイレも設置されています。
御殿場ルートの御殿場口新五合目は、4大ルートの中で唯一マイカー規制が敷かれていません。
富士山スカイラインから太郎坊入口を経て新五合目駐車場(約450台収容・無料)まで、シーズン中であっても自家用車で直接乗り入れることができます。
なお、大雨などの異常気象時には富士山スカイラインをはじめとするアクセス道路が通行止めとなり、シャトルバスやタクシーの運行も全面見合わせとなるため、当日の気象情報と道路情報には細心の注意を払う必要があります。
電車・路線バス・高速バスで行く富士山各合目へのアクセス方法
公共交通機関を利用した富士山へのアプローチは、渋滞時の運転ストレスを回避し、登下山で異なるルートを選択できる柔軟性が大きな魅力です。
首都圏や主要新幹線駅から発着する鉄道、直通高速バス、登山路線バスの運行体系をルート別に解説します。
吉田ルート(富士スバルライン五合目)へのアクセス
首都圏からの利便性が最も高い吉田ルートへは、鉄道の特急列車や直通高速バスが充実しています。
- 直通高速バス(バスタ新宿発着):新宿高速バスターミナル(バスタ新宿)から富士スバルライン五合目(富士山五合目)直通の高速バスが運行(片道3,800円・予約制・所要約2時間35分)。
- 特急「富士回遊」(JR中央線〜富士急行線直通):新宿駅〜河口湖駅間を毎日直通運転(所要約1時間52分)。全座席コンセント、大型荷物置場、大型トイレを備えたE353系車両で運行。
- 路線バス(富士山駅・河口湖駅発):富士急行線の富士山駅および河口湖駅から、富士急バスの路線登山バス(M-Line・予約不要)が運行(所要約1時間・片道1,780円/往復2,800円)。
- 馬返行きバス:富士山駅から吉田口登山道の一合目起点となる「馬返」への路線バスも運行。
神奈川方面からは、横浜駅、日吉・センター北・たまプラーザ・市が尾の各駅からも五合目直通高速バスが夏季限定で運行されており、乗り換えなしで登山口へ到達できます。
富士宮ルート(富士宮口五合目)へのアクセス
新幹線停車駅からの接続が良く、東海・関西・西日本方面からの登山者にも適したルートです。
- 東海道新幹線 三島駅発:富士急シティバスの路線バスが運行(所要約2時間)。
- 東海道新幹線 新富士駅・JR富士宮駅発:富士急静岡バスの路線バスが運行(新富士駅から約2時間5分、富士宮駅から約1時間20分。往復割引乗車券あり)。
- JR東海道線 富士駅発:富士宮口五合目行きの路線登山バスが運行。
- 高速バス:東京駅や成田空港から高速バスで富士宮駅へ向かい、そこから登山バスへ乗り換えるルートも利用可能。
須走ルート(須走口五合目)へのアクセス
須走口五合目へは、JR御殿場線および小田急線の主要駅から路線バスが発着しています。
- JR御殿場線 御殿場駅発:富士急バスの須走口五合目行き路線バスが運行(予約不要)。
- 小田急小田原線 新松田駅発:新松田駅から須走口五合目行きの直通路線バスが運行。
- 臨時特急列車の運行:2026年7月11日(土)、8月29日(土)、9月5日(土)には、JR東海の特急「ごてんば号」(静岡駅⇔御殿場駅)、JR東日本の「Mt.FUJI御殿場号」(東京駅⇔御殿場駅)が特別運行。
御殿場ルート(御殿場口新五合目)へのアクセス
御殿場口新五合目へは、JR御殿場駅を起点としてバスが運行されています。
- JR御殿場駅発:富士急モビリティの登山バスが運行(所要約30分・予約不要)。
- 東京・横浜方面からの接続:東京駅や横浜駅から高速バスで御殿場駅へ向かい、登山バスへ乗り継ぐルートがスムーズです。
- 河口湖方面からの接続:富士急行線河口湖駅とJR御殿場駅を結ぶ路線バスも運行。
登山道の開通期間と緊急時の連絡体制
富士山の登山道が開通している期間は、盛夏のおよそ2ヶ月間に限られています。
気象条件や残雪状況によって変動しますが、例年の開通および閉鎖時期、現地での安全管理体制を把握しておく必要があります。
2026年の開通・閉鎖スケジュール
- 開山(開通)時期:山梨県側(吉田ルート)は7月1日頃、静岡県側の須走ルートは2026年より7月1日開通予定、富士宮ルート・御殿場ルートは例年7月10日頃に開通。
- 閉山(閉鎖)時期:全ルート一斉に例年9月10日頃に閉鎖。
閉山を迎えると、山頂を含む六合目以上のすべての山小屋や公衆トイレは冬季閉鎖に入り、救護所の設置や登山道の維持管理も終了します。
秋から春にかけての富士山は、氷点下の猛烈な風雪、落石、雪崩の危険が極限まで高まる過酷な領域となります。
また、8月下旬以降は閉山日を待たずに一部のトイレや山小屋が順次営業を終了するため、水分の補給計画やトイレの位置確認は直前の最新情報をもとに行わなければなりません。
万が一の事態に備える緊急連絡先一覧
登山中に体調不良や事故が発生した場合は、速やかな状況判断と通報が求められます。
- 警察(110番):六合目以上での滑落、道迷い、山岳救助を要する事案。
- 消防・救急(119番):五合目付近での負傷や急性疾患。
- 静岡県警富士宮警察署:0544-23-0110
- 富士宮警察署富士山富士宮口臨時警備派出所(総合指導センター内):090-2182-2239
- 富士宮市消防本部:0544-22-1198
- 富士山衛生センター(富士宮ルート八合目・池田館隣り):医師が常駐する夏期救護施設。
- 御殿場警察署:0550-84-0110
- 御殿場市・小山町広域行政組合消防本部:0550-83-0119(須走・御殿場方面)
- 山梨県富士山五合目総合管理センター(吉田ルート五合目):090-5190-0167
- 須走口五合目救護所(須走インフォメーションセンター内)
※御殿場ルートには登山道上に医師常駐の救護所が設置されていないため、より一層の自己体調管理と慎重な行動が不可欠です。
登山エッセイストが読み解く「富士山アクセスの変遷と現代登山の本質」
かつての人々は、富士の霊峰を仰ぎ見ながら山麓の浅間神社で身を清め、白装束に草鞋を履き、何日もの時間を費やして一歩一歩その頂を目指しました。
現代の私たちは、舗装されたスカイラインやスバルラインを通じて、車やバスに揺られるだけで一息に標高2,000m超の雲上世界へと運ばれます。
文明の利器がもたらしたアクセスの進化は、富士山という大自然を誰もが挑戦できる身近な存在へと変えてくれました。
しかし、地理学や火山学の視点からこの山を見つめ直すとき、移動の容易さは時に人間の感覚を狂わせる刃にもなり得ると僕は感じています。
わずか数時間前まで日常の街並みにいた身体が、急激な気圧低下と希薄な酸素の環境へ放り出されるからです。
五合目という場所は、単なる登山道のスタート地点ではありません。外界の喧騒から過酷な自然界へと意識を切り替え、身体を高度に順応させるための「結界」のような役割を果たしています。
マイカー規制によって水ヶ塚や富士北麓でバスを待つ時間、あるいは主要駅から揺られる登山バスの車窓風景は、これから対峙する大いなる火山への敬意を取り戻す貴重な助走期間といえるでしょう。
便利さに身を委ねつつも、五合目に降り立った瞬間から自らの五感を研ぎ澄ますこと。それこそが、現代の富士登山において安全と深い感動を両立させる本質だと考えます。
まとめ
富士山登山を安全かつ円滑に楽しむためには、登山口までのアクセスを綿密に組み立てることが欠かせません。
吉田・富士宮・須走・御殿場の4大ルートは、それぞれ登山口の標高や距離、アクセス手段が異なります。
夏季の開山期間中は富士宮口、須走口、吉田口で大規模なマイカー規制が実施されるため、自家用車の場合は山麓の指定駐車場(水ヶ塚公園、須走多用途広場、富士山パーキング)からシャトルバスを利用する必要があります。
一方で、新宿や東京、三島、新富士、御殿場など主要拠点から発着する直通高速バスや特急「富士回遊」、路線登山バスを活用すれば、スムーズに五合目へアクセス可能です。
天候による道路の通行止めや山小屋・トイレの早期閉鎖など、現地の状況は刻一刻と変化します。
事前に公式発表の最新交通情報と気象予報を必ず確認し、無理のない行程で霊峰・富士の懐へと足を踏み入れてください。
よくある質問
マイカー規制期間中に自家用車で行く場合、予約は必要ですか?
山麓の乗換駐車場(水ヶ塚公園駐車場や須走多用途広場など)および五合目へ向かうシャトルバスは、基本的に事前予約不要で当日利用できます。ただし、週末や連休、お盆期間は駐車場が混雑するため、時間に十分な余裕を持って到着することをおすすめします。
新宿から乗り換えなしで五合目まで行く方法はありますか?
バスタ新宿から吉田ルートの登山口である富士スバルライン五合目へ直行する高速バスが夏期に運行されています。所要時間は約2時間35分で座席指定の予約制となっているため、事前に乗車券の予約を済ませておくとスムーズです。
最も標高が高い五合目まで車やバスで行けるルートはどれですか?
静岡県側の「富士宮ルート(富士宮口五合目)」です。登山口の標高は約2,400mに位置しており、山頂までの標高差が約1,320mと最も小さいため、登りの歩行距離を短く抑えたい登山者に選ばれています。


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