深夜2時。富士山・八合目の稜線に立ち、僕はゆっくりと呼吸を整えた。
標高3,000メートルを越えるこの場所は、空気が薄く、音が吸い込まれたような静けさがある。
地理学の研究で何度も訪れ、登山講座でも繰り返し説明してきた“富士の夜”だが、やはりこの時間帯の空は特別だ。
頭上には、高度によって歪む星々がまるで氷の粒のように散らばり、
東の地平線には、次の時代の幕が静かに上がる前触れのような白い線が滲みはじめていた。
「間に合うだろうか」――
山頂でご来光を迎えるために一歩一歩進む登山者たちの吐く息が、月明かりに照らされて白く揺れる。
僕自身、十代から何十回と山頂で朝を迎えてきたが、この“ご来光前の一時間”ほど、富士の神秘が濃くなる瞬間はない。
富士山のご来光は、ただ太陽が昇る現象ではない。
火山としての地形、季節風、標高差、そして人の祈りが交差する“文化的現象”であり、人生の節目に深く刻まれる光景だ。
しかし、実際に見に行こうとすると、誰もが立ち止まる。
- 富士山のご来光は何時に見えるのか?
- 山頂・山小屋・五合目、どこが最も美しいのか?
- 山頂を目指すなら、何時に出発すべきか?
- 深夜の渋滞や八合目の混雑は本当にあるのか?
そこで本記事では、富士山研究家として四季の富士を追い続け、
国内外で講演も行ってきた僕が、実地の経験と科学的な視点を重ねながら、
「山頂・山小屋・五合目──三つの標高で“ご来光はどう違うのか”」
そして“どの地点で、何時に動けばベストの朝を迎えられるのか”
を、初めての富士登山者でもわかりやすく解説していく。
あなたがこの先で出会う朝が、きっと忘れられないものになるように。
富士山ご来光は何時に見える?時期別の目安

さあ、ここから一気に“核心”へ入っていこう。
富士山のご来光は、ただの夜明けじゃない。
季節・標高・地形がつくり出す「日本でもっともドラマチックな朝」だ。
だからこそ、まず知ってほしいのが「ご来光は何時に見えるのか?」という一点。
ここを押さえるだけで、あなたの登山計画は一気に成功へ近づく。
僕自身、何度も山頂で寒さに震えながら時刻データを比較してきたけれど、季節ごとの差は本当に大きい。
● 夏山シーズン(7〜8月)の山頂ご来光
もっとも登山者が多い季節、そして“ご来光のゴールデンシーズン”。
山頂では4:30〜5:15ごろに太陽が姿を現す。
- 7月初旬:4時台前半(超早い!)
- 8月中旬:4時台後半
- 8月下旬:5時過ぎ(少しゆっくり)
これは、僕が毎年チェックしている富士五湖地域の公式日の出データや、富士登山公式サイトの時刻としっかり一致する。
多少のズレはあるけれど、登山の計画を立てるには十分信頼できる基準だ。
● 標高によって変わる「日の出の順番」
ここがまた面白いポイントだ。
富士山は火山としての形状が整っている分、標高によって“見える時間”がガラッと変わる。
仕組みはシンプルで、太陽が山の斜面から顔を出す角度によって、標高が低いほど日の出が遅くなる。
つまり、標高が高ければ高いほど、誰よりも早く“日本の朝”を迎えられるわけだ。
| 場所 | 標高 | 見える時刻の目安 |
|---|---|---|
| 山頂 | 3,776m | もっとも早い(4:30〜5:15) |
| 八合目 | 3,200〜3,400m | 山頂より +10〜20分 |
| 五合目 | 2,000〜2,400m | 条件が揃えば見える |
登るほど日の出が早くなるというこの構造は、登山者にとってはまさに“ご褒美のような理屈”。
例えるなら、努力したぶんだけ舞台の最前列へ近づいていく感覚に近い。
場所別に比較──山頂・山小屋・五合目、どこで見るべきか?

富士山のご来光は「どこで見るか」で、まるで別の景色になる。
そしてこの違いを知れば知るほど、登山計画が一気に楽しくなる。
僕自身、何十回といろいろな地点でご来光を見てきたけれど、場所ごとの特徴を知って挑むと“楽しさの濃度”が段違いだ。
ここでは、もっとも人気の山頂、意外と奥が深い山小屋(七〜八合目)、そして知られざる選択肢である五合目を、研究家として、そして実際に歩き続けてきた登山者として全力で比較する。
① 山頂のご来光──「日本で最も早い朝」を真正面で受け止める場所
まずは王道中の王道、山頂。
ここで迎えるご来光は、本当に“別格”だ。
雲海の向こうから太陽がせり上がる瞬間を、遮るものなくド直球で受け止められる。
- ご来光の時刻が最速(まさに日本一の朝)
- 達成感は圧倒的。言葉が出なくなるレベル
- 光と色の変化がダイナミックで写真映えも段違い
- その代わり、混雑は“本気で”すごい
- 体感温度0〜5℃、風が吹くと一気に修行モード
特に八合目〜山頂間は、深夜3時〜5時にほぼ確実に渋滞が起きる。
僕も何度か「あと100メートルなのに進まない…!」という焦りを味わった。
でも、その先にある景色は間違いなく“人生に残る一枚”。
② 山小屋(七〜八合目)──静けさと余裕で味わう、ご来光の“隠れ名所”
僕が個人的にもっと広めたい場所がここ、山小屋だ。
というのも、山小屋からのご来光はバランスの良さが最強だからだ。
- 山頂より10〜20分遅いだけで、景色の迫力は十分
- 混雑を避けやすく、落ち着いて鑑賞できる
- 体力を節約できるので初心者も安心
- ご来光後に山頂へ行く“裏の王道”が実現できる
窓の外が徐々に明るくなり、山小屋の中にふわっと朝の気配が入ってくる瞬間は格別だ。
山頂の迫力とは違うが、“静かな感動”がしっかり味わえる。
正直、僕はこの場所をもっと評価してほしい。登山の経験値に合わせて、ここを選ぶのは賢い選択肢だ。
③ 五合目──実は“見られる日がある”雲上のご来光スポット
そして最後は、盲点になりがちな五合目。
これが意外と侮れない。条件が揃うと、ここからでもご来光が見える。
- 登山なしで楽しめる“手軽さ”が魅力
- 展望台や駐車場からそのまま見られる
- 空気が澄んだ日は、雲海とのコントラストが美しい
- ただし天候の影響を強烈に受ける
- 山頂より30分以上遅くなる日もある
個人的には、初めて富士山を訪れる人や家族連れには、この選択肢も十分アリだと思っている。
「登らないと見られない」という固定観念を覆してくれる景色が、ここにはちゃんとある。
ご来光を見るための登山スケジュール完全ガイド

ご来光は、“どのタイミングでどこに立つか”で感動のレベルがまったく変わる。
そして、これを理解した瞬間から富士登山は一気に楽しくなる。
僕も初めてスケジュールの「正解」を掴んだとき、思わずワクワクして眠れなかったほどだ。
ここでは、富士山に何度も登り、ご来光を追いかけ続けてきた僕が、
「安全・感動・効率」すべてを両立できるスケジュールを本気で解説する。
① 山小屋泊の場合(もっとも一般的で、そして一番ワクワクする)
まずは王道中の王道。
「山小屋に泊まって、深夜に山頂アタック」するプランだ。
富士登山に慣れた人ほど、このスタイルが“完成形”だと言う。
なぜなら、この流れが一番ドラマを綺麗に作るからだ。
● 前日の流れ
- 午後:五合目に到着。標高に慣れつつ、軽く体を動かす
- 夕方:七〜八合目の山小屋にチェックイン
- 夕食:大鍋のカレーや味噌汁が体に染みる時間
- その後:少し緊張しながら、早めの就寝
この“静かな前夜”が、実はご来光の感動を何倍にも引き上げる。
● ご来光当日の流れ
- 1:00〜2:00 山小屋を出発(ヘッドライトの光が連なる瞬間は胸が高鳴る)
- 4:00〜5:00 山頂に到着。ご来光タイム
- その後:お鉢巡りや写真撮影。朝の余韻そのままに下山へ
注意すべきは、八合目〜山頂の深夜の渋滞。
3:00〜5:00は大混雑し、30分〜1時間止まることもある。
だからこそ、ここを“余裕を持って超える”ための早出が重要だ。
② 初心者向け:山小屋でご来光 → 落ち着いてから山頂へ行く「裏の王道」
僕が初心者に強く推しているのが、このプラン。
実は、富士山を知っている人ほど「これ、めちゃくちゃいいじゃん…!」と気づき始めている。
それが、
山小屋でご来光を見て、混雑が落ち着いてから山頂を目指す方法。
この方法、とにかく“メリットだらけ”。
- 渋滞を完全回避できる(これは本当に大きい)
- 体力を温存した状態で行動できる
- ご来光の余韻のまま、気持ちよく山頂へ向かえる
- 初心者の「不安ポイント」をほぼゼロにできる
僕はこのスタイルを「裏の王道」と呼んでいる。
安全で、気持ちよくて、そしてしっかり達成感も味わえる。最高の三拍子だ。
③ 夜間登山の注意点(ここはワクワクより“冷静さ”が大事)
深夜の富士山は、昼とはまったく違う世界になる。
ワクワクする気持ちが膨らむほど、同時にリスクを正しく知ることが大事だ。
- ヘッドライトは必須(電池切れは本当に危険)
- 睡魔が出やすい。足を踏み外す事故が多い
- 風が強い日は体温が一気に奪われる
- 初心者の単独夜間登山は絶対に避ける
- こまめな休憩と水分補給を忘れない
僕が講座でも必ず伝えるのは、
「富士山は、ちゃんと準備した人には最高の朝をくれる山」ということ。
焦らず、無理をせず、でもワクワクしながら準備してほしい。
その姿勢こそが、ご来光を“最高の瞬間”に変えてくれる。
富士山のご来光を最大化する“装備と心構え”

ご来光を「ただの綺麗な朝」にするか、「一生記憶に残る体験」にするか。
その差をつくるのが、ここで紹介する装備と心構えだ。
僕も最初は装備を甘く見て痛い思いをしたけれど、しっかり準備するようになってからは、ご来光の感動がまったく違った。
まず押さえておきたいのは、富士山の夜明け前は真夏でも体感0〜5℃まで下がること。
寒さ対策が十分じゃないと、「きれいだけど…寒すぎて楽しむどころじゃない!」という事態になりやすい。
● 必須装備リスト(これさえあれば安心!)
- 防寒着(フリース・ダウン):とにかく体温が奪われるので必須
- 手袋・帽子・ネックウォーマー:一点足りないだけで寒さが倍増する
- レインウェア(上・下):風よけ&急な天候変化に必須
- ヘッドライト(予備電池):夜の登山では“命綱”
- 行動食(羊羹・ナッツ・チョコ):寒さと標高でエネルギー消費が早い
- 1〜1.5Lの水:夜でも脱水は普通に起こる
- トレッキングポール:下山時の疲労が段違い
特にヘッドライトと防寒着は、もはや「持ってないと危険」レベル。
登山講座でもここは何度も強調している。
● 心構えで変わるご来光の印象
そして、装備と同じくらい大切なのが心構え。
ご来光は“見ること”自体が目的になるけれど、実はその前後にどんな気持ちで過ごすかで印象が全く変わる。
山頂へ向かうときの緊張感。
山小屋で待つときの、あの静かなワクワク。
五合目で迎える穏やかな朝の空気。
どれもご来光の一部であり、楽しむための“前菜”みたいなものだ。
僕はよく講座でこう言う。
「富士山のご来光は、見えた瞬間だけじゃなく、そこに至る過程すべてが本番です」
準備万全で挑んだ人ほど、光が出た瞬間の「やった…!」という気持ちが何倍にも膨らむ。
そのワクワクをぜひ丸ごと味わってほしい。
まとめ──ご来光は「どこで見るか」より“どう味わうか”

富士山のご来光は、場所が変わればまったく違う表情を見せる。
だからこそ、この選択が本当に面白い。
- 山頂:日本で一番早い“特等席の朝”を味わえる
- 山小屋:混雑を避けつつ、静かにじっくり楽しめる
- 五合目:登山なしでも挑戦できる、想像以上の穴場
でも、富士山を何度も登ってきた僕が最後に必ず伝えるのは、これだ。
ご来光の価値は “場所” じゃなく、あなたがその瞬間をどう迎えるかで決まる。
山頂で歓声とともに迎える朝も、
山小屋で胸の高鳴りを感じながら待つ朝も、
五合目でのんびり深呼吸して迎える朝も――どれも立派な「富士の朝」だ。
そして、どの選択にもあなた自身の物語が刻まれる。
その物語が濃いか薄いかは、準備と心構え、そして“ワクワクして挑む気持ち”で大きく変わる。
僕はいつだって、ご来光の直前に同じことを思う。
「ああ、またこの瞬間に立てた。」
次は、あなたの番だ。
どの朝を選ぶかは、あなた次第。
でも、どれを選んでも――きっと忘れられない旅になる。
FAQ(よくある質問)
Q1. 富士山のご来光は何時に見える?
A. 夏山シーズンは4:30〜5:15あたりが目安です。
「え、そんなに早いの!?」と思うかもしれませんが、標高が高いほど太陽を早くキャッチできます。
早起きしたぶんだけ、ちょっと得した気分になりますよ。
Q2. 五合目からでもご来光は見える?
A. 実は見える日があります!
条件が良いと五合目でもバッチリ。山頂より30分以上遅くなることもありますが、気軽に挑戦できるのが魅力です。
「登らなくても見えるの?」と驚く人、多いです。
Q3. 初心者が一番おすすめの場所は?
A. 僕は断然山小屋推しです。
理由はシンプルで、安全・体力温存・混雑回避の3つが全部そろっているから。
余裕のある状態で見るご来光は、本当に味わい深いですよ。
Q4. 山頂の混雑はどれくらい?
A. 正直に言うと……かなり混みます。
八合目〜山頂は深夜の3:00〜5:00が渋滞ピーク。
でも、早めに出発すればしっかり回避できます。
「渋滞を超えた先の景色は価値あるの?」と聞かれますが、答えはもちろん“YES”です。
Q5. 夜間登山は危険?
A. はい、初心者の単独夜間登山はかなり危険です。
富士山を知り尽くした立場から言っても、強くおすすめできません。
山小屋泊を選べば、安心感がぐっと上がり、ワクワクしながら挑めます。
参考情報源
今回の記事は、僕自身の経験だけでなく、信頼できるデータをしっかり確認しながら書いています。
「ワクワクしながら登山してほしいからこそ、数字や裏付けも大切にしたい」——そんな思いで選んだ情報源です。
- Climb Mt. Fuji(富士山公式登山情報:混雑・スケジュール)
Avoid "Traffic Jams" | 2. When to go | Official Web Site for Mt. Fuji ClimbingChoosing the right timing / Avoiding the - 富士吉田市観光ガイド(山小屋情報・登山コース紹介)
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どれも“富士山を語るなら絶対に外せない”情報源ばかり。
正確なデータと実際の体験を組み合わせることで、あなたが安心してワクワクできる登山計画を立てられるようにしています。


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