富士山が噴火する根本的な原因は、地下深くでせめぎ合う3つのプレート境界で生成されたマグマが、浮力と発泡した火山ガスの急激な圧力によって地殻を突き破るためです。
2026年9月現在、気象庁火山監視課の火山活動解説資料においても、山頂直下や深部での微小な低周波地震が継続的に観測されており、富士山が今なお地下で熱い息吹を宿す活動度ランクBの活火山である事実を明確に示しています。
白雪をまとうその均整の取れた姿は、決して永遠に静止した風景画ではありません。
幼少期から富士の稜線を仰ぎ見つめ、幾度となくその険しい岩肌を踏破してきた僕にとって、この山はただ愛でる対象ではなく、大地の脈動と畏怖をダイレクトに伝える巨大な生命体そのものです。
なぜ富士山は周期的な沈黙を破って噴火を繰り返すのか、そして直近の観測データと改定ハザードマップは何を警告しているのか。
火山地質学の基礎から、歴史が物語る噴火の爪痕、そして僕たち登山者や生活者が直面する現実的な防災課題まで、独自の視点を交えて詳しく解き明かしていきます。
富士登山では、「何を持っていくか」以上に「どう揃えるか」で準備の負担が大きく変わります。
購入とレンタル、どちらが自分に合うのか迷ったら、装備選びで後悔しないための考え方をこちらの記事で整理しています。
なぜ富士山は噴火するのか?地下で起きているマグマ上昇のメカニズム
富士山の噴火は、プレート沈み込み帯の上部マントルで生成された玄武岩質マグマが、周囲の岩盤との密度差による浮力と、揮発成分の発泡圧によって地表へ押し出される地球物理現象です。
日本列島の地下深部では、東から太平洋プレートが沈み込み、南からはフィリピン海プレートがユーラシアプレートや北米プレート(オホーツクプレート)の下へと複雑に潜り込んでいます。
富士山はこの3つの異なるプレート境界が交錯する「トリプルジャンクション」の直上に位置しており、世界でも類を見ない特異なテクトニクス環境が、絶え間ないマグマの生成を促しています。
沈み込んだ海洋プレートから絞り出された水分がマントルの融点を下げ、地下数十キロメートルの深部で高温のマグマを生み出し続けます。
こうして発生したマグマは、周囲を構成する固い岩石よりも密度が低いため、浮力によって長い時間をかけて地殻内をゆっくりと上昇していきます。
地表から数キロメートルから十数キロメートルほどの深さには、上昇したマグマが一時的に蓄積される「マグマだまり」が存在します。
マグマだまりの内部では、周囲の岩盤へ熱が奪われてマグマが冷えていく過程で、結晶化が進むとともに水蒸気や二酸化硫黄、二酸化炭素といった火山ガス成分が過飽和状態となって激しく分離・発泡します。
よく振った炭酸飲料のボトルキャップを緩めた瞬間に、溶け込んでいた炭酸ガスが一気に気泡化して液体ごと吹き出すのと全く同じ物理的原理が、地下のマグマだまりで進行するのです。
マグマだまりを閉じ込めている周囲の地殻岩盤の耐圧限界を、内部のガス圧が上回った瞬間、岩盤が破壊されて「火道」と呼ばれる通り道が地表へと突き抜けます。
さらに、上昇してきたマグマが山体内部に豊富に蓄えられた地下水脈や帯水層に接触すると、水が一瞬にして数千倍の体積へと気化・膨張し、すさまじい破壊力を伴う水蒸気爆発やマグマ水蒸気爆発を引き起こします。
現在、日本国内には気象庁の火山噴火予知連絡会によって111の活火山が定義されており、富士山もその中心的な一翼を占めています。
過去1万年以内に噴火した痕跡がある山はすべて活火山と位置づけられており、現代の火山学において「休火山」や「死火山」という言葉は完全に死語となりました。
富士山が見せる優美な裾野の広がりは、過去幾万年にもわたる噴火によって流出した溶岩や火山灰が幾重にも降り積もって削り出された、激しい自然営為の結晶なのです。
気象庁が発表した最新データと直近の火山活動動向
気象庁の最新監視データによると、富士山の噴火警戒レベルは「レベル1(活火山であることに留意)」が維持されています。
山頂火口や登山道周辺において、直ちに大規模な噴火が発生するような浅部地震の群発や、山体の急激な隆起といった異常な地殻変動は確認されておらず、表面的な静穏状態は保たれています。
しかし、地底深くの観測網が捉えている生データに目を凝らすと、富士山が完全に眠りこけているわけではない冷厳な事実が浮かび上がってきます。
富士山の直下、地下10〜20キロメートル付近の深部では、マグマや高温高圧の超臨界熱水が移動する際に生じる「深部低周波地震」が、月数回から十数回のペースで途切れることなく記録されています。
この深部低周波地震の継続は、地下のマグマ供給系が現在進行形で脈動を繰り返している決定的な動かぬ証拠です。
国土地理院が展開するGNSS連続観測網のデータを見ても、マグマだまりの急激な体積膨張を示すような異常な基線長の伸びは今のところ検出されていません。
それでも、2021年3月に改定された富士山火山防災マップ以降、航空レーザー測深をはじめとする先端計測技術によって、広大な原生林の地下に埋もれていた過去の未知の側火口が次々と発見されています。
気象庁や地方自治体で構成される火山防災協議会は、現状の穏やかな表情に決して惑わされることなく、高感度地震計、傾斜計、GNSS、監視カメラを用いた24時間の多重監視を継続しています。
僕たち登山者が息を呑むような美しい朝焼けの背後で、大地の底では静かに、しかし確実にマグマの呼吸が刻まれていることを忘れてはなりません。
4つの火山が重なり合う地質構造:小御岳から新富士への歩み
現代の僕たちが見上げている富士山は、最初から単一の山としてそびえ立っていたわけではなく、異なる4世代の火山が気の遠くなるような時間をかけて同じ場所に重なり合って形成された「複成火山」です。
周辺の地殻は数十万年前から激しい地殻変動に晒されており、爆発的噴火、溶岩流の流出、山体崩壊を交互に繰り返すことで、現在の雄大な姿へと成長を遂げました。
富士山がなぜこれほど多彩で予測困難な噴火形態を見せるのかを紐解くには、山体の奥底に眠る重層的な歴史の地層を掘り起こす必要があります。
先小御岳火山と小御岳火山(約70万年前〜20万年前)
近年の深層ボーリング調査によって、地層の最深部に「先小御岳(せんこみたけ)火山」と呼ばれる安山岩主体の古い火山体が埋没していることが明らかになりました。
その上に、今からおよそ70万年前に噴火活動を開始したのが「小御岳(こみたけ)火山」です。
当時は現在の駿河湾沿岸に位置する愛鷹山(あしたかやま)の活動も極めて活発であり、複数の巨大な成層火山が並び立っていました。
小御岳火山の山頂部は、現在の富士山北斜面スバルライン終点、標高約2,300メートルの小御岳神社周辺に一部が露出しており、黒っぽい安山岩の露頭として今でもその原形を目撃することができます。
古富士火山(約10万年前〜)
小御岳火山の活動休止期を経て、約10万年前に活動を本格化させたのが「古富士(こふじ)火山」です。
古富士火山の特筆すべき点は、粘性の低い玄武岩質のマグマでありながら、大量の火山灰や多孔質の黒い噴出物である「スコリア」を爆発的に噴き上げたことにあります。
激しい爆発的噴火を繰り返したことで山体は急速に標高を上げ、標高3,000メートル級の巨大な成層火山が形成されました。
当時は最終氷期にあたり、山頂周辺は厚い雪氷に覆われていたため、灼熱の噴出物が氷雪を一瞬で融解させ、大規模な「融雪型火山泥流」となって山麓を何度も削り下りました。
やがて約1万1,000年前になると活動様式が激変し、流動性の高い玄武岩溶岩が約2,000年間にわたって山腹から大量に流れ出しました。
この時期に流出した溶岩流の中には、駿河湾沿岸まで40キロメートル以上も到達したものがあり、現在の富士市や沼津市の台地を形作る基盤となりました。
新富士火山(約5,000年前〜現在)
数千年の小康状態を挟み、約5,000年前から現在まで活動を続けている最新のステージが「新富士(しんふじ)火山」です。
新富士火山の噴火は、山頂火口からの激しい爆発のみならず、山腹に無数の火口列を開く側火山噴火、広大な溶岩流、火砕流、山体崩壊など、多種多様な活動を網羅しています。
火山学者たちが富士山を指して「噴火のデパート」と呼ぶ背景には、この新富士火山が持つ変幻自在で予測のつきにくい噴火特性があります。

約3,000年前の縄文時代後期には、大沢、砂沢、仙石、大室などと呼ばれる爆発的噴火が相次ぎました。
大沢スコリア噴火では、東寄りの強風が吹いていたため、噴出物が偏西風に逆らって西側の静岡県浜松方面にまで降り積もった事実が地質調査によって突き止められています。
さらに約2,300年前には、東斜面で大規模な山体崩壊が発生し、膨大な土砂が足柄平野や三島方面へ雪崩れ込む「御殿場泥流」を引き起こしました。
この山体崩壊は明確なマグマの上昇を伴わずに発生したと見られており、直下の活断層の地震動によっても山体が致命的な脆さを見せることを如実に物語っています。
登山靴、レインウェア、ザック、防寒着……必要なものを一つずつ揃えていくと、意外と悩むポイントが増えてきます。
しかも、すべてを購入することだけが正解とは限りません。
僕ならどこまで揃え、どこからレンタルを考えるのか。富士登山の装備を無理なく準備する方法をこちらの記事で詳しくまとめました。
初めて登る方でも、数分で全体像をつかめます。
平安から江戸へ:歴史書が記録する富士山「三大噴火」の被害
西暦781年に記された『続日本紀』の記録以降、古文書によって確実に裏付けられている富士山の噴火は17回にのぼります。
とりわけ平安時代(800年〜1083年)は活動が最も活発化した黄金期であり、わずか280年ほどの間に12回もの噴火が集中しました。
その中でも、景観を一変させ、人々の暮らしに壊滅的な打撃を与えたのが、歴史に刻まれる「富士山三大噴火」です。
噴火名 発生年 主な発生場所 主な現象 周辺地域への影響と現代に残る痕跡
延暦大噴火 800年(延暦19年)〜802年 山頂火口および山腹 爆発的噴火、大量の降灰、噴石 東海道の要衝であった「足柄路」が火山灰で完全に埋没・通行不能となり、険しい「箱根路」への街道迂回を余儀なくされた。
貞観大噴火 864年(貞観6年)〜866年 北西斜面(長尾山火口列) 膨大な青木ヶ原溶岩の流出 富士北麓の巨大湖「せの海」を埋め尽くして西湖と精進湖に分断。冷え固まった溶岩地帯の上に現在の青木ヶ原樹海が形成。
宝永大噴火 1707年(宝永4年) 南東山腹(宝永第1〜第3火口) 激しいプリニー式噴火、大量の降灰 宝永地震の49日後に発生。江戸市中に数センチの降灰、山麓農地の壊滅、酒匂川の度重なる大氾濫を長期にわたり誘発。
800年に発生した延暦大噴火は、『日本紀略』において「昼なお暗く、雷声が轟き、砂灰が雨のように降った」と生々しく描写されています。
2年後の802年1月にも再び激しい噴火が起き、東西を結ぶ官道であった足柄路が埋没したため、当時の朝廷は箱根路を新たな街道として切り開かざるを得なくなりました。
864年に始まった貞観大噴火は、富士山史上最大規模の溶岩流出劇として地質学に記録されています。
北西山腹の長尾山付近に開いた割れ目火口から流れ出た灼熱の溶岩流は、富士北麓に広がっていた広大な湖「せの海」へと雪崩れ込みました。
湖水は猛烈な勢いで沸騰して水蒸気を噴き上げ、湖の大半を呑み込んで西湖と精進湖の2つに分断した末、冷え固まった広大な溶岩台地の上に1,000年以上の歳月をかけて現在の青木ヶ原樹海が育まれたのです。
そして、現在に至る富士山最後の噴火となったのが、1707年(宝永4年)の「宝永大噴火」です。
この噴火は、南海トラフ全域を震源とする連動型超巨大地震「宝永地震(M8.6)」が発生したわずか49日後に引き起こされました。
巨大地震の猛烈な揺れが富士山直下のマグマだまりを撹拌し、地殻の引っ張り応力が働いたことで急激な減圧発泡が生じたことが、覚醒の決定打になったと考えられています。
旧暦11月23日の早朝、南東斜面の標高2,200〜3,000メートル付近で大地が引き裂かれ、3つの巨大な火口が一気に開口しました。
白煙から黒煙へと変貌した噴煙柱は成層圏まで立ち上り、上空の強い偏西風に乗って100キロメートル以上離れた江戸市中にまで降り注ぎました。
現在の横浜や川崎付近では数センチメートル、千葉の房総半島にまで灰が降り積もり、江戸の街では昼間から行灯を灯さなければ生活できないほどの暗闇に覆われたと記録されています。
噴火は16日間にわたって激しい爆発を継続し、ようやく噴煙が収まったものの、本当の悲劇は噴火の終息後に訪れました。
山麓の須走地区では降り積もったスコリアと火山灰によって家屋が押し潰され、農地や用水路が完全に埋没して作物は全滅しました。
さらに、山肌に堆積した膨大な火山灰が大雨のたびに泥流となって酒匂川へと流れ込み、下流の足柄平野では長年にわたって堤防決壊と大洪水が繰り返され、飢饉と疫病が地域社会を根底から打ちのめしたのです。
噴火が迫ったときに現れる7つの予兆シグナル
富士山のような大規模な成層火山は、何の前触れもなくある日突然として巨大爆発を引き起こすわけではありません。
地下深部からマグマが岩盤を割りながら地表へと這い上がってくる過程では、必ず物理的・化学的な異常シグナルが周囲の大地や環境に現れます。
気象庁や大学の研究機関、地方自治体は、以下の7つの現象を複合的な前兆シグナルとして監視網を張り巡らせています。
- 火山性地震と低周波地震の急増:地下のマグマが上昇して周囲の岩盤を破砕する際、高周波の火山性地震が多発します。さらにマグマやガスの流動に伴う低周波地震や持続的な火山性微動が発生し、山麓では地鳴りが観測されます。
- 山体膨張と地殻変動の急変:マグマだまりに大量のマグマが供給されることで山体全体が風船のように膨らみ、傾斜計やGNSSで急激な隆起や傾きの変化が記録されます。岩盤が限界に達すると山腹に新たな亀裂が走り、大規模な落石が発生します。
- 火山ガス放出量の増大と火映現象:二酸化硫黄や硫化水素の放出量が急激に跳ね上がり、噴気の温度が上昇します。夜間には、地表近くまで上がってきたマグマの赤熱が上空の噴煙や雲に反射して赤く光る「火映(かえい)現象」が確認されます。
- 地熱上昇による植生の広域立ち枯れ:マグマの上昇に伴って浅い地層の地熱が上昇し、地下から高濃度の火山ガスが染み出します。これにより、斜面に自生していた樹木や高山植物の根が破壊され、青々としていた森林が一帯で突然立ち枯れを起こします。
- 爆発的な空振と低周波音:火道内でマグマや高圧ガスが爆発的に解放される際、空気中を強い衝撃波(空振)が駆け抜けます。人間の耳には聞こえない超低周波音であっても、数キロメートルから数十キロメートル離れた民家の建具をガタガタと激しく震わせます。
- 地下水位の乱高下と温泉の異常:マグマの熱水系が周囲の地下水脈を圧迫するため、山麓の井戸水が急激に水位を下げて枯渇したり、逆に吹き出したりします。温泉施設では湧出温度の急上昇、泉質の変色、硫黄臭の激化などが確認されます。
- 動植物の異常行動:人間が感知できない微小な磁場変動や超低周波振動、微量なガスを敏感に察知し、野鳥の群れが一斉に山から飛び去ったり、小動物が麓へ逃げ出したりするなどの異常行動が報告されることがあります。
これらのシグナルが単独ではなく複数同時に確認され、地震の発生深度が深部から浅部へと急激に浅くなってきたとき、それはマグマが地表への出口をこじ開けようとしている決定的なカウントダウンを意味します。

300年以上の沈黙が意味するもの:噴火間隔の特異性とエネルギー蓄積
過去3,200年間の富士山の活動史を統計的に紐解くと、山はおよそ100回以上の噴火を起こしており、その平均発生間隔は「約30年に1度」という極めて高い頻度でした。
しかし、1707年の宝永大噴火を最後に、富士山は2026年の今日に至るまで300年を超える完全な沈黙を保ち続けています。
これは過去の統計的平均と照らし合わせても10倍に達する、地質学的に見て極めて異例で不気味な休止期です。
なぜこれほど長い間噴火が起きていないのかについて、火山物理学では「宝永大噴火によるマグマだまりの徹底的な減圧と枯渇」がひとつの有力な仮説として挙げられています。
宝永噴火では約7億立方メートルもの膨大なマグマが一気に地表へ吐き出されたため、地下のマグマだまりが空に近い状態となり、再び噴火可能な圧力に達するまでに数百年単位のチャージ期間を要しているという見解です。
しかし、沈黙が長いということは、決してマグマの活動が停止した安心安全の証ではありません。
海洋プレートの沈み込みが今も毎秒単位で続いている以上、富士山へのマグマ供給がストップすることは物理的にあり得ないからです。
マントルから供給され続けるマグマが冷え固まることなく地下深部に滞留し続けているならば、マグマだまりには膨大な熱エネルギーと火山ガス圧が蓄積され続けていると見るのが自然科学の合理的な視点です。
300年という沈黙の深さは、次に解き放たれるエネルギーの巨大さと表裏一体である可能性を、僕たちは常に念頭に置いておく必要があります。
専門家が指摘する最新ハザードマップの実態と徒歩避難の現実的課題
富士山火山防災協議会が改定した最新のハザードマップは、従来の想定を大幅に見直し、最新のシミュレーション技術によってリスクを可視化しました。
改定ハザードマップでは、想定される火口の範囲が山頂周辺だけでなく山腹全体や市街地近郊にまで大きく拡大され、溶岩流の総噴出量想定も過去の最大規模(約13億立方メートル)を基準に約2倍へと引き上げられました。
その結果、溶岩流が山麓の富士吉田市や富士宮市街地へ到達する時間は大幅に短縮され、最短で噴火後約2時間以内に市街地へ押し寄せることが判明しています。
これに伴い、行政の広域避難計画では「第3次避難対象エリア(溶岩流が3時間以内に到達する可能性がある区域)」において、道路の破滅的な渋滞を防ぐために『原則として徒歩避難』という厳しい指針が打ち出されました。
しかし、現場を知る登山エッセイスト・研究家としての僕自身の視点から言わせていただければ、この「原則徒歩避難」という方針と、実際の地域住民や年間数百万人規模の観光客が置かれている現場の実態との間には、深刻な乖離が存在します。
噴火が発生した際、上空からは数センチから数十センチの火山灰が猛烈な勢いで降り注ぎ、昼間であっても太陽光が遮られて漆黒の闇に包まれます。
足元には降り積もった細かいスコリアが敷き詰められ、砂浜を歩くように足を取られ、視界不良と有毒ガスの混じった空気の中で防塵マスクとゴーグルを装着した状態で、高齢者や子どもを連れて数キロメートル以上を徒歩で逃げ切ることは容易ではありません。
さらに、近年急増している外国人観光客に対して、多言語による正確な避難誘導やシェルターの確保がどこまで実効性を持って機能するのか、現場のインフラ整備は道半ばと言わざるを得ません。
行政が定めた机上のタイムラインに頼るのではなく、噴火警戒レベルが「レベル3(入山規制)」や「レベル4(高齢者等避難)」に引き上げられた段階で、いかに周囲の目を気にせず早期に車を使って圏外へ事前避難できるか。
「空振りの避難」を何十回繰り返してでも、命を守るために躊躇なく行動できる社会的な合意形成こそが、現場が直面している最も切実な課題であると僕は確信しています。
富士山噴火が首都圏にもたらす壊滅的リスクと都市機能停止のシナリオ
富士山噴火の影響は、山麓の溶岩流被害にとどまらず、100キロメートル離れた首都圏の都市機能を一瞬で機能不全に陥れる潜在的な破壊力を秘めています。
上空を吹く偏西風に乗って首都圏全域に降り注ぐ「火山灰」は、単なる砂や土ではなく、マグマが急冷されてできた硬質でギザギザとしたガラス質の微粒子です。
内閣府の火山防災ワーキンググループによる試算では、宝永噴火と同規模の噴火が発生した場合、降灰量は東京23区で数センチから十数センチ、神奈川県西部では30センチ以上に達すると予測されています。
わずか0.5ミリの降灰で道路の白線が見えなくなって車のスリップ事故が多発し、鉄道はレールと車輪の通電不良や信号システムの故障によって即座に運行停止へ追い込まれます。
火山灰の粒子が送電設備に付着し、雨などの湿気を帯びると「がいし」の絶縁破壊(トラッキング現象)を引き起こし、東京や神奈川を中心とする広域大停電が発生します。
停電に伴って上下水道のポンプ機能が停止し、さらに浄水場に火山灰が混入することでろ過池が目詰まりを起こし、大規模な断水が数週間以上にわたって長期化します。
空港の滑走路も火山灰によって閉鎖され、航空機エンジンのタービン内部に吸い込まれた灰が溶融してエンジン停止を招くため、空の便も完全に孤立します。
物流トラックが走行不能になることでスーパーやコンビニの食料棚は即日で空になり、水、電気、ガス、通信、食料のすべてが断たれた巨大都市に数千万人が取り残されるという、未曾有の都市機能麻痺が現実に起こり得るのです。
吸い込んだ火山灰は気管支炎や喘息などの呼吸器系疾患を引き起こし、目に入れば角膜を傷つける健康被害も深刻化します。
「山が噴火した」という遠くの出来事ではなく、蛇口から水が出なくなり、明かりが消え、物流が止まるという形で、僕たち現代人の日常を直撃する現実的な危機として捉えなければなりません。
火山と生きる知恵:僕たちが今すぐ備えるべき具体的なアクション
富士山が活火山である以上、噴火を人間が防ぐことは不可能です。
しかし、噴火の予兆を正しく理解し、事前に十分な準備を整えておくことで、被害を最小限に抑える「減災」は十分に可能です。
僕が山岳ガイドや防災アドバイザーの視点から、読者の皆さんに強く提案したい備えは以下の4つの行動です。
- 防塵マスク(N95規格推奨)と保護ゴーグルの家族人数分の常備:火山灰は微小なガラス片であるため、一般的な不織布マスクでは粉塵の侵入を防ぎ切れません。密閉性の高いN95規格の防塵マスクと、目を全方位から守る密着型の保護ゴーグルを必ず防災リュックに入れておきましょう。
- 最低2週間分の飲料水と非常食の備蓄:首都圏の上下水道と物流が完全に麻痺することを想定し、従来の「3日分」という基準を改め、1人あたり最低2週間分の水(1人1日3リットル)と保存食を確保することが不可欠です。
- 雨水や灰を防ぐブルーシートとガムテープの準備:室内に火山灰を侵入させないため、窓の隙間や換気扇、エアコンの室外機を塞ぐブルーシートや養生テープが極めて有効な防護具となります。
- 自治体の最新火山ハザードマップの熟読と複数避難ルートの確認:自分が住む地域、あるいは訪れる観光地がどの避難対象エリアに属しているのかを事前に把握し、土砂崩れや渋滞を回避できる複数の迂回路を地図上で家族と共有しておく必要があります。
自然を畏れ敬う心とは、ただ怯えることではなく、相手の性質を正確に知り、それに適応した行動を淡々と積み重ねることです。
富士山が与えてくれる清らかな湧水や美しい四季の恵みを享受する一方で、山が持つ荒ぶる一面に対しても誠実に向き合い続ける姿勢が求められています。
富士山の噴火原因とメカニズムに関するまとめ
富士山は、3つのプレート境界で生成された玄武岩質マグマが、浮力と発泡ガス圧によって地殻を突き破ることで噴火する、現在も生きている活動度Bの活火山です。
約70万年前の先小御岳・小御岳火山から始まり、古富士火山、新富士火山へと山体を幾重にも積み重ね、延暦・貞観・宝永といった歴史的大噴火を経て現在の秀麗な姿が造られました。
宝永大噴火から300年以上の異例の沈黙が続いていますが、2026年9月現在も地下深部低周波地震が継続的に観測されており、マグマ供給系は決して眠りについていません。
火山性地震、山体膨張、噴気や地熱の変化といった前兆シグナルに常にアンテナを張り、最新のハザードマップと実効性のある避難行動を日常の意識に落とし込むことこそが、富士と共生するための唯一の道です。
僕たち一人ひとりが正しい知識と備えを持つことこそが、大地からの呼びかけに対する最も誠実な答えとなるはずです。
よくある質問
富士山が最後に噴火したのはいつですか?
1707年(宝永4年)に発生した「宝永大噴火」が富士山の最後の噴火です。南海トラフ巨大地震である宝永地震の49日後に噴火が始まり、南東山腹に巨大な3つの火口(宝永火口)を開口させ、16日間にわたって大量の火山灰やスコリアを噴出しました。江戸市中にも数センチの降灰をもたらし、山麓の農地に壊滅的な打撃を与えました。
富士山はもう噴火しない休火山なのですか?
いいえ、富士山は休火山ではなく、気象庁に指定されている「活火山」です。現代の火山学では「休火山」「死火山」という分類は廃止されており、過去1万年以内に噴火歴がある火山はすべて活火山と定義されています。300年以上沈黙していますが、地下深部ではマグマの流動を示す低周波地震が現在も継続して観測されています。
富士山が噴火した場合、首都圏にはどんな影響が出ますか?
溶岩流が首都圏まで到達する可能性は極めて低いですが、偏西風に乗って降り注ぐ「火山灰(降灰)」が甚大な被害をもたらします。わずか数ミリの降灰でも鉄道の運行停止や道路のスリップ事故が発生し、数センチの堆積で大規模停電、火力発電所の停止、上下水道の浄水ろ過機能麻痺、健康被害(気管支炎や眼疾患)が生じ、都市機能が完全に麻痺する危険性があります。
神楽 岳志(かぐら・たけし)
富士登山の準備で迷いやすいのが、「本当にこの装備を全部買う必要があるのか」という問題です。
頻繁に山へ行く人と、まずは富士山に挑戦したい人では、合理的な揃え方も変わります。
大切なのは、費用だけで決めるのではなく、安全性や使う頻度まで含めて考えること。
購入とレンタルの違いが分かれば、自分に必要な装備もかなり整理しやすくなります。
富士登山の装備レンタルをどう使えばいいのか、詳しくはこちらの記事で確認できます。
全部読む必要はありません。気になるところだけ拾い読みしてみてください。


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